返済猶予を促す中小企業金融円滑化法案の衆院委員会での採決強行を機に、国会が混乱している。民主党は自民党の議会運営を「数の横暴」と批判してきたはず。政権交代の成果を国会でも示せ。
新政権誕生後初の法案採決が、いきなり強行とは、想像もつかなかった。民主主義下では、最終的には多数意見に従って物事が決まるのは当然だが、それは議論を尽くした上でのことだ。
この法案の委員会での実質的審議は十八日に始まったばかり。法案を主導した亀井静香金融担当相は「だいたいの論点は出尽くしていたと思う」などと採決強行を正当化したが、十九日の委員会採決までの審議時間は計十時間。議論し尽くしたとは言い難い。
民主党は、自民党政権がかつて採決を強行した際には「おかしい」(当時の小沢一郎代表)などと批判していた。攻守が代わっても以前と同じことを続けるのであれば、国民の理解は得られまい。
民主党は今回、採決を急いだ理由を、臨時国会の会期末が三十日に迫る中、日本郵政関連株の売却凍結法案など、ほかの法案の審議時間を確保するためと説明する。
自民党など野党側が審議を引き延ばしたという事情もあるだろうが、民主党の姿勢からは、臨時国会を早く閉じてしまおうという意図が感じられてならない。
その背景に、鳩山由紀夫首相の故人献金問題や、小沢一郎幹事長の秘書が逮捕・起訴された西松建設巨額献金事件への追及を回避する狙いがあるなら、言語道断だ。
鳩山首相は先の所信表明演説で「真に国民のためになる議論を、力の限り、この国会でぶつけ合っていこう」と呼び掛けた。
しかし、谷垣禎一自民党総裁との党首討論は実現しておらず、政治家同士の「国のかたち」をめぐる骨太の議論が聞かれず残念だ。見送りは法案審議を優先する与党側の事情というが、首相が逃げていると見られても仕方あるまい。
国会ではこれまで、審議内容よりも審議日程をめぐって与野党が駆け引きを演じてきた。
こうした日程闘争は、国会の会期が定められているが故に有効な国会戦術になってきたという背景があり、会期を定めない「通年国会」の実現がその打開策になるという意見がある。検討に値する。
日程闘争に明け暮れる「古い国会」から、論議を尽くす「熟議の国会」へ。政権交代は大胆に舵(かじ)を切る好機なのである。
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