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天声人語

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2009年11月21日(土)付

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 城山三郎さんは機械にめっぽう弱かった。娘さんの著書によると、「無駄に文が長くなる」とパソコンを拒み、家電とのつき合いは必要最小限。仕事部屋にはエアコンもなかったという▼独り外出する老作家を案じ、ご家族が携帯電話を持たせたことがある。しかし使う気配はなく、かけても出ない。本人にただすと、充電コードを差したまんま枕元に置いていた。「あれ、夜でも時刻表示が出るから便利なんだよ」▼「置き時計」への転用はさすがに城山流としても、携帯を腕時計代わりにしている人は多い。手首のおしゃれに無頓着な筆者もその口だ。時計を外してしばらくは左手に目がいったが、今では「電話もできる懐中時計」がなじんだ▼思えば、携帯は欲が深い。通信の主役を固定電話から奪ったばかりか、目覚まし、カメラ、テレビ、パソコンなどから機能をつまみ食いし、どんどん重装備になった。電子マネーの財布として使える機種も多い。何よりそこには、持ち主の交遊データが詰め込まれている▼戦火が絶えなかった欧州の富裕層は、いざという時に備え、財産を持ち出しやすい宝飾品や絵画にしていたという。現代人は図らずも、いわば公私の情報資産をその一台に蓄える。携帯はますますなくせない▼だからこそ、犯罪捜査では宝の小箱にもなる。芸能人の薬物事件などで携帯の所在や通信記録が取りざたされるたび、この利器が負わされた責任の重さを思う。「重ね着」の宿命とはいえ、たまにはゴロリと、枕元に転がっていたい日もあるのではないか。

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