尼崎脱線事故の報告書漏えい問題でJR西日本の佐々木隆之社長は社外有識者による最終報告書を前原誠司国土交通相へ提出した。組織ぐるみの不祥事にはあきれる。これでは信頼回復の道は遠い。
死者百七人、負傷者五百六十二人というJR発足後最悪の脱線事故が発生してから四年半余り。山崎正夫前社長ら経営陣が繰り返して強調してきた「信頼回復に全力を挙げる」との言葉は、もはや色あせた。
漏えい問題を検証したコンプライアンス特別委員会は前社長らが国交省航空・鉄道事故調査委員会(現運輸安全委員会)の委員に何度も接触したと指摘。公表前の報告書を入手したことは「組織的な情報収集」で、被害者や社会の目よりも「組織防衛を優先する企業風土があった」と断定した。
さらに同社の閉鎖的な企業風土形成について、分割・民営化後に同社を率いた井手正敬氏が経営トップを退いても“院政”を敷き、独善的経営を続けてきたことが背景−と異例の言及を行った。
委員会報告は同社の問題点をはっきり浮かび上がらせている。
ただし漏えいを働き掛けた行為の核心は、組織防衛というよりも経営陣の刑事責任の回避に重点があったのではないか。
また井手氏個人の責任を問うことは当然だが、それで会社全体の責任が軽減されるわけではない。先月下旬、神戸第一検察審査会は安全対策を怠ったとして事故当時の井手相談役や南谷昌二郎会長、垣内剛社長の歴代経営トップ三人を起訴相当と議決している。
地に落ちた同社の信頼を回復するには、経営陣と従業員全体の意識改革が不可欠だ。
経営トップに必要な資質は誠実さだ。事故や不祥事が起こった時、隠したり保身を図ってはいけない。尼崎事故は取り返しのつかない大事故だ。同社は常にその重さをかみしめなければならない。
従業員を大切にすることも重要だ。鉄道に限らず企業活動を円滑に遂行するには働きやすい環境を整える。適切な安全投資は従業員重視に直結する。
そして長期政権を避ける。政治の世界も企業社会も「長期政権は必ず腐敗する」点は共通だ。定期的な交代で新陳代謝を図ることが企業の活性化につながろう。
従業員も自分の仕事だけに専念するという狭い視野に陥ってはならない。人命を預かる職場なら、安全第一がすべてに優先することをしっかりと確認すべきだ。
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