縄という道具はなぜか神秘性を帯びている。これを張り巡らせば聖と俗を隔てられると昔の人は信じたのだろう。神社の建物はもちろん海の奇岩にも山峡の滝にも掛かるのが注連縄(しめなわ)だ。巨木にしっかり巻き付けてある光景も珍しくない。
▼民主党政権は森の中のさまざまな大木に聖なる縄を巡らし、切るに切れず立ち往生しているようだ。マニフェスト(政権公約)に掲げた子ども手当や高速道路の無料化、農家への戸別所得補償などなど手を出しかねる御神木だろう。来年度予算づくりを控え、縄を引き合いに出すならまさに自縄自縛のありさまだ。
▼税収が30兆円台に落ち込みそうだとあって、さすがに見直しの声が出てきたらしい。たしかに公約は大切だが、なにも金科玉条のように守ることはないから当然の流れというべきか。ここは鳩山さんも勇気を振り絞ったらどうだろう。政策に巻き付けた縄をほどけば自らの身動きもずいぶん自由になるに違いない。
▼前半戦が終わった「事業の仕分け」では、森の木々をバサバサと切り落としてそれなりに目を見張らせる政権の振る舞いである。ならば呪縛(じゅばく)を解いてもっと大木に、枝葉ではなく幹に切り込んだとしても説明を尽くせばうなずく人は多かろう。いや参院選が……と尻込みする姿のほうが幻滅を深めるというものだ。