米ネット販売大手のアマゾン・ドット・コムが電子書籍端末の「キンドル」を日本など世界各国で販売し始めた。音楽業界では米アップルの携帯音楽プレーヤー「iPod」が音楽ネット配信市場を築いた。キンドルは出版業界のiPodともいえるだけに、日本も出版物のネット販売に真剣に取り組む必要がある。
キンドルは画面を電気的に書き換える電子ペーパーを使った携帯端末。無線を使い、本1冊分の情報を1分で取り込める。液晶より目に優しく、約1500冊分の情報を保存できる。消費電力も小さく、米国では50万台以上が売れたという。
アマゾンは米国では英語の書籍を35万冊以上配信しており、新聞や雑誌も購読できる。日本語はまだ対応していないが、日本の出版社などと組み、将来的には日本語の書籍や雑誌なども配信していく計画だ。
キンドルに対抗し、日本国内でも講談社や集英社など出版50社が共同で有料ネット配信の実証実験に着手した。出版物のデジタル化には著作権処理が必要で、事業モデル作りも一緒に進める。電通もベンチャー企業のヤッパと組み、有料配信サービス「マガストア」を始めた。
実は出版物のネット配信は米国より日本の方が早い。KDDIは6年前から携帯電話向けに配信しており、電子書籍端末の開発もソニーが先行した。ただ配信方式が各社で異なり、情報量の値段や通信速度が普及を妨げた。音楽配信も同様で、タイミングよく商品を投入したアップルが市場を押さえた。
日本の出版市場には再販制度などがあり、キンドルがすぐに標準になるとは考えにくい。だが配信方式が各社バラバラでは音楽の二の舞いとなりかねない。国立国会図書館が納本制度の延長で古書の電子保存を進めているが、新書のデジタル化やネット配信についても技術の標準化やルール作りを進めていくべきだ。
日本の出版市場はインターネットが台頭した1996年を頂点に13年縮小し、今年は2兆円を下回る見通しだ。電子書籍市場は約460億円で成人向けの携帯マンガが中心だが、今後はデジタル化やネット配信が避けて通れない。日本も今から準備を進めておく必要がある。