経営者の仕事はすさまじいものだと実感する機会が何度かあった。例えば1985年秋からの急激な円高に輸出産業が直撃されたときだ。対応に苦労したキヤノンの賀来龍三郎社長の疲れ切り、すっかり老け込んだ表情が忘れられない。
▼まだ60歳ぐらいだったと思うが、白髪が増し70歳過ぎの老人に見えた。業績が落ち込む前の、自信に満ちた精悍(せいかん)な印象とは様変わりである。「みんな慌ててしまって、私が対策に直接走り回らざるを得なかった」と話していた。V字型回復を果たしたのはさすがだったが、経営者の責任の重さをまざまざと示した。
▼職責上、社員にいい顔ばかりしていられない。厳しい施策が必要な場合がある。「経営トップというのは罪深い仕事だと思う」とシャープの町田勝彦会長は語っている。同社では正社員の整理解雇はなかったが、配置転換はある。誰もが満足というわけにはいかない。「優しすぎると、会社が揺らぐ」からつらい。
▼日本航空のような企業は年金の減額まで迫られる。危機に臨んで社員がついてくるかどうかは、「経営者の人間性にかかっている」と日本能率協会の水藤几僖常務理事はみる。「最後は理屈より『あの人が言うのなら仕方がない』で決まる」。「社長」の肩書だけでは務まらないのが経営者の仕事の難しさである。