厚生労働省が新型インフルエンザワクチン接種の手順をまたまた変更した。小学校高学年の接種を12月下旬に前倒しする内容で、度重なる変更に戸惑う人が多いだろう。
つい先日、1歳から小学校低学年の小児の接種開始を前倒ししたばかり。しかも発表は標準的な日程を示すだけで、現場とずれている。実際の接種は都道府県で異なる。同じ地域でさえ病院によって違う。
接種には病院などへの予約が必要。希望する人は、最寄りの自治体や医療機関のホームページや電話で確認しなければならない。
なぜ、こんなにわかりにくい事態を招いてしまったのか。
根本には国内のワクチン供給能力が足りないことがある。厚労省が接種の優先順位や外国製ワクチンの輸入を決めたのも、遅きに失した。ワクチンの接種を進めながら、手順を決める自転車操業になっている。
厚労省内の政務官と医系官僚の主導権争いが混乱を増幅した面もある。妊婦や持病のある大人への接種回数を2回とすべきか、それとも1回でよいのか。ハムレットのように方針を二転三転させたのだ。
10ミリリットルの大型容器でワクチンを出荷したのも、医療現場の実情を無視した判断だった。1歳から6歳未満の小児なら50人分の容量があり一度に使い切れず、容器を介した感染の危険も生じている。供給を急ぐなか、増産に適している大型容器を用いた面はあるにせよ、病院などに手間やリスクをしわ寄せした形だ。
ワクチン不足が指摘される一方で、余っている病院もあるという。適切な情報の共有が必要で、配分の仕組みの点検が急がれる。
これまでの感染者数は約600万人で、約60人が亡くなった。致死率は10万分の1で、単純な比較はできないものの、季節性インフルエンザ(2千分の1程度)より低い。侮るのもいけないが、いたずらにあわてないようにしたい。
厚労省はこれを機に、ワクチンの供給能力の向上に全力を挙げるべきだ。接種費用を税金で負担する割合を増し、副作用による被害が出た場合の補償制度を充実させるなどして、国内のワクチン産業を育てる必要がある。命と健康がかかっている。