七〜九月期の実質成長率が前期比年率4・8%増となった。プラス成長は喜ばしいが、先行きは楽観できない。直嶋正行経済産業相が公表前に数字を漏らすようでは肝心の経済運営に不安が残る。
今回のプラス成長は前期に続いて、二期連続。事前の民間予想と比べても、平均を大きく上回る高い伸びになった。だが、中身をみると不安要因が残る。
まず、高成長を支えたのはエコカー減税やエコポイント導入など政府の財政出動だった。金融危機は一段落の様子とはいえ、雇用や賃金低迷が続き家計は将来に不安を抱いている。
「補助金や減税の恩典が受けられるうちに」と買い替えが活発になったものの、政策が見直されれば息切れするのは必至だ。将来の需要を先取りした形である。
デフレ傾向が強まっている点も見逃せない。物価動向を示す国内需要デフレーターは前年同期比マイナス2・6%と過去三番目に大きなマイナス幅になった。
物価下落は家計にプラスの面もあるが、やや長い目で見ると、企業収益を圧迫して、最終的に雇用や賃金に悪影響を及ぼす。すでに製品価格の下落を吸収するために企業が下請けにしわ寄せしたり、低賃金の非正規雇用を絞り込む動きが出ている。欧米でも景気は二番底に陥る危険性が指摘され、数字はプラスであっても、警戒感を緩められる局面ではない。
今回の国内総生産(GDP)速報で直嶋経産相が公表約三十分前に石油連盟との会合で数字を明らかにしてしまう失態が起きた。発表時間を勘違いしたようだが、勘違いで済ませられない面がある。
というのは、成長戦略の策定をめぐっても直嶋経産相と菅直人国家戦略相の間で綱引きが生じているからだ。直嶋経産相が有識者の検討会議を設けると発表したかと思えば、菅国家戦略相も副大臣クラスによる検討チームを設置する意向を表明した。
双方が経済運営の主導権を争っているかのように見える中で、GDP指標の主管大臣ではない直嶋経産相がフライングした。幸い、金融市場は思わぬ事態に大きく反応しなかったようだが、両大臣の間で十分な意思疎通があったかどうか、疑問が残る。
鳩山政権でだれが経済政策に責任を負っているのか、そして目指す経済の姿とは。司令塔と政権の共通理解なくして、景気回復への道筋は描けない。今回の失態を奇貨として、検討を急ぐべきだ。
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