病身ながら、つえをついて登院する姿に憲法への思いが伝わってきた。安倍政権下の二〇〇七年五月、憲法改正の手続きを定める国民投票法案を採決した参院の本会議場▼八十六歳で亡くなった田英夫さんはこの日、反対票を投じ、「最低投票率の規定がなくて一部の人の賛成で改憲できてしまうのは問題だ」と声を震わせた▼原点は自身の戦争体験だ。学徒出陣で海軍に入った田さんの配属は、爆弾を付けたベニヤ板製モーターボートで敵艦に突っ込む「震洋」特攻隊。出撃前に敗戦を迎えたが、田さんにとって、戦争放棄をうたう九条は、無念の思いを残して戦死した仲間たちの咲かせた「花」にほかならない▼それ故、若い世代に台頭する改憲論に危機感を抱いた。〇三年の衆院選後、本紙が実施した国会議員に対する調査で、二、三十代の議員の改憲賛成派が八割を超えた。意見を聞くと「戦争体験の風化が原因だ。それしか考えられない」と残念がった▼それと同時に戦争体験に依存する限界も痛感していたようだ。「(社民)党の『護憲』は戦争体験に頼るばかりで、護憲の訴えをどう生かすのか中身をまったく考えてこなかった」と手厳しかった▼ニュースキャスターの草分けでもあった田さんは、ジャーナリストは権力を恐れずに真実を伝える使命と責任があると言い続けてきた。その思いを継承したい。