七、九一〇トンといえば、昔の軽巡洋艦とほぼ同じ排水量だ。それがあっけなく横転した。三重県の熊野灘で座礁、横倒しになったフェリー「ありあけ」の海難事故は犠牲者ゼロが奇跡のように思える▼積み荷の固定方法など複合的な要因も指摘されているが、船長は複数の波が重なって生じる「三角波」に直撃され、船体が傾いたと説明している▼三角波は潮流や強風の影響で異なる方向の波が重なって生じる険しい大波だ。この波が立つと操船は不可能になると、海の男たちを恐れさせている▼打ち寄せる波の前に難しい舵(かじ)取りを迫られているのは、内閣発足から二カ月となる鳩山政権も同じだ。時事通信の世論調査では内閣支持率は発足直後より6・2ポイント減の54・4%。日本郵政の社長人事や米軍普天間飛行場移設問題に加え、鳩山首相の「故人献金」問題が影を落としている▼初来日した米オバマ大統領と首相は、地球温暖化対策と核廃絶の共同文書を発表。記者会見では、お互いファーストネームで呼び合う親しい関係を強調したが、献金問題にはのどに刺さった骨のような悩ましさがあるはずだ▼首相の資金管理団体などの支出額について、未解明の原資が五年間で五億円に上り、検察が関心を寄せていると本紙は報じている。首相が真相を明らかにしないこの問題は、いずれ政権の「三角波」になりかねない。