驚いた。毎日186回もたばこを「やめようか」と考えるというのだから。ポケットから出す。くわえる。火をつける。1本につき3回、1箱で60回思う。さらに店で金を払う時と品物を受け取る時。それを3箱分という計算だそうだ。
▼劇作家の別役実さんが随筆に書いている。「この種の習慣について、これほど頻繁に『やめようか』ということが考えられ、にもかかわらずやめられていないものは、ほかにない」。ただし、実はやめる気はなく、そう考えることで自らを鼓舞しながら吸っているのだという。なるほど、たばこ好きの心理である。
▼たばこの増税論議がまたかまびすしくなった。吸う人が減れば、健康増進や医療費節約につながる。値上げで税収増の可能性もある。理にはかなっているけれど、さて、喫煙者はどのくらい減るか。300円を1000円にすれば、96%の人が「やめよう」と思うという試算など、別役説からみれば少々疑わしい。
▼もっとも、意志の塊のごとくみえるオバマ米大統領だってことし6月、「禁煙は95%成功しているが、時々失敗する」と告白している。同じ「最後の5%の悩み」を抱える愛煙家もいるだろう。値上げすればその背中をポンと押すことになる。そんな想像をしてしまうのは、やっぱり吸わざる者のお節介だろうか。