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社説 環太平洋の「歴史的転換点」で存在感示せ(11/15)

 オバマ米大統領は14日、都内でアジア政策について演説し「我々は今、まれにみる歴史の転換点を迎えている」と語った。冷戦の終結から20年、確かにアジア太平洋地域で起きていることは歴史的と呼ぶにふさわしいダイナミックな変化である。

 昨年のリーマン・ショックで米国の経済力の衰えが顕在化した。経済危機のさなかに誕生したオバマ政権による「変革」に期待が集まるが、立て直しは容易でない。

オバマ演説が示す焦り

 対照的に、太平洋の反対側で中国が目覚ましい勢いで台頭している。名目国内総生産(GDP)は今年か来年に日本を抜いて世界2位になる見通しだ。軍事面では国防費がすでに日本を上回ってアジア最大の規模に膨らみ、シンガポールや豪州などから公然と懸念の声が出始めた。

 インドやインドネシア、ベトナムなども世界経済危機の中でかなり高いプラス成長を保ってきた。生産拠点としてだけでなく、消費拡大で市場としての魅力も高まっている。

 そして日本である。政権交代が実現したが、経済面では停滞感が強まっている。人民元ベースで中国の名目GDPがほぼ20倍に増えた過去20年の間に、日本の円ベースの名目GDPはほとんど伸びていない。

 経済と安全保障の両面で起きている巨大な変化に的確に対応しなければ、日本は成長戦略を描くのが難しく、安全も揺らぐおそれがある。周到な戦略とそれを踏まえた力強い国内改革が必要になっている。

 演説でオバマ大統領は、アジアが米国に輸出する流れを変え米国からアジアへの輸出を増やしたいとの考えを強調した。米経済立て直しへアジアのパワーを利用したいとの思いが色濃くにじみ、国力低下への焦りも感じられた。

 大統領は保護主義への反対も強調したが、雇用創出と輸出促進が経済運営の柱の一つになるだろう。第2次世界大戦が終わってからずっと対米輸出に依存してきた日本など多くのアジア諸国は、新たな成長戦略を求められる。

 太平洋を取り囲む21カ国・地域が参加するアジア太平洋経済協力会議(APEC)は今年が20周年だ。14日からシンガポールで開かれている首脳会議では、経済危機後のこの地域の成長戦略が最大のテーマだ。

 来年の議長国は日本で、今回の議論を踏まえ成長戦略を練り上げる役割を担う。日本の存在感をアピールする機会でもあり、鳩山由紀夫首相は今後1年の対外政策の柱と位置づけて取り組んでほしい。

 成長戦略の核になるのはやはり通商の自由化だ。APEC全体の自由貿易圏を目指す作業を着実に進めたい。シンガポールやチリなど自由化で先行している一部のメンバーが独自に具体化した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を検討する必要もある。米国や豪州は加わる意欲を表明済みだ。

 貿易自由化で日本が主導権を握るには、農家保護のための高い農産物関税の引き下げなど、痛みをともなう国内改革を避けて通れない。

 鳩山政権が農業政策の柱として打ち出した農家への戸別所得補償制度は生産性向上の面で疑問が残るものの、農産物への高関税の大幅な引き下げと組み合わせれば、単なるばらまきでなく自由貿易協定(FTA)戦略の柱にできる。そこまで決断できるかどうかが問われる。

 安全保障の面でも、圧倒的だった米国の力が揺らぎ、戦略的な取り組みが問われ始めている。

市場開放へ国内改革を

 「中国のすべての周辺国は注意する必要がある」。10月、米国で演説したシンガポールのリー・クアンユー元首相は中国建国60周年の軍事パレードに触れ、警鐘を鳴らした。

 21年連続で国防費が2けたの伸びを記録し、空母の建造や核兵器の近代化など中国軍の増強ぶりを示す情報には事欠かない。日本を含む多くの周辺国が未解決の領土、領海問題を抱えている一方、自由と民主主義のない一党支配体制の下で政策決定が透明性を欠いているため、周辺国は不気味な思いを禁じ得ない。

 日本と同じく米国と同盟関係にある豪州政府は今年、9年ぶりに発表した国防白書で中国軍増強のために「米国に頼るだけでは十分ではなくなった」と危機感を示し、大幅な国防費増額の方針を打ち出した。

 鳩山政権は「対等の日米関係」を掲げて自民党政権時代とは異なる米国との距離感を模索している。米国抜きの「東アジア共同体」を目指す声もある。強大化する中国にどう対応するのか、という戦略的な判断に基づいて日米安保のあり方を真剣に模索していかなければならない。

 安全保障面では中国軍の増強を踏まえた戦略を、経済面では国内改革による市場開放でアジア太平洋の成長力を取り込む戦略を、鳩山政権は果断に追求していくべきだ。

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