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春秋(11/16)

 東京近郊に住む目の不自由な若い女性会社員が、都心まで一人、電車で通勤していた。大変でしょうと聞かれ「あっちこっちにぶつかりながら歩きますから、なんとか……」とほほ笑んだ。「ぶつかるものがあるとかえって安心」だと。

▼この問答をテレビで見た詩人の吉野弘さんは強い衝撃を受けた。目の見える自分には、人も物も「避けるべき障害」にすぎない。しかし彼女にとって、ぶつかってくる人や物は「世界から差しのべられる荒っぽい好意」であり、ぶつかることは世界と結ばれることだと知ったからだ。作品「ぶつかる」にそう記す。

▼ブラインドサッカーの試合を観戦し、吉野さんの詩を思い出した。転がると鈴が鳴る特別なサッカーボールを、視覚障害者が奪い合う。欧州や南米で盛んなこの競技が日本に本格上陸したのは7年前。来月はアジア大会が東京で開かれる。思いのまま走りコート脇の壁や相手選手にぶつかる。ケガも珍しくはない。

▼選手の一人は参加する理由を「行動が制約されず、自分が障害者であることを忘れられるから」と語る。ぶつかるのを恐れず、ぶつかって理解する選手たち。冒頭の女性の話から吉野さんは、ぶつかることを避けて生きる心の寂しさに気づく。いまブラインドサッカーがファンを広げるのも同じ理由かもしれない。

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