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へえ、「井戸の茶碗(ちゃわん)」みたいな話が本当にあるんだ――と落語好きの人は思ったのではないか。ある若侍(わかざむらい)が古びた仏像を二束三文で買い、磨いていたら中から50両の小判が出てきた。これが落語の筋立てである▼実話は奈良県であった。この9月、中学校のバザーで靴収納用品が2箱、それぞれ10円で売りに出た。別々の人が買って帰ると箱の中から200万円ずつ、計400万円が出てきた。たまげた2人は警察に拾得物として届けたそうだ▼謎めいた話は、このほど持ち主が現れて落着となった。小紙の奈良版によれば、63歳の女性がへそくりとして隠し、うっかり忘れたままバザーに出したという。「よく届けてくれました」と女性。名高いネタも現代の実話には一本取られた格好だ▼遺失と拾得をめぐる話には往々にドラマがある。なくした時は悲運を呪ったが、届けてくれた人の情にふれて、逆に幸せな気分をもらった。そんな美談もあれば、泣く泣くあきらめた無念も聞く。善意と不実の交差する人の世の縮図だろう▼2年前には茨城県で、1千万円の当たり宝くじを置き忘れた人がいた。報道されると19人が名乗り出た。警察が吟味して持ち主を確定したが、人の世は基本的には、せち辛いものらしい▼ちなみに「井戸の茶碗」では、若侍と、仏像の前の持ち主が「自分の金ではない」と美(うる)わしく譲り合う。ものの本によれば、世相を映してか、こうした癒やし系の正直話が昨今の寄席では好まれるそうだ。名演を一席聞きたくなる心地がする、今年の冬の初めである。