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農家戸別補償―拙速を避け、本格案に

 民主党が総選挙で掲げた政権公約の目玉の一つ、農家への「戸別所得補償制度」の導入に向けて、農林水産省が動き出した。だが農水省案には大きな問題があり、このままだと日本農業の再生はおぼつかない。

 最大の問題は、日本の農業衰退の原因となった「減反政策」を温存していること。さらに、大半の農家を補償対象としてしまい、農地の集約が進まなくなりそうなこと、である。

 制度の導入に伴い農水省が来年度に要求している予算は約5600億円。事業仕分け作業などを通じて予算削減に力を注いでいる一方で、これほどの巨額が結果的に農家へのバラマキと化さないようにしなくてはならない。

 減反政策は、コメの需要量に合わせて生産量を調整する官民協調の生産カルテルだ。需要が減っても米価が下がらないようにして、農家経営を支える狙いがある。

 この政策は40年間にわたって続けられてきた。つぎ込まれた財政資金は累計約7兆円。国民は消費者として高いコメを買わされ、納税者としても巨額の負担を担わされてきた。

 安い輸入米が入らないようにと、コメに778%という高関税をかけていることの弊害も大きい。世界貿易機関での農業交渉や主要国との自由貿易交渉の足かせになっている。

 これほどの代償を払ったにもかかわらず、減反は日本の農業の足腰を弱めてきた。農家の増産意欲が奪われた結果、後継者不足や耕作放棄地の拡大に拍車がかかっている。

 戸別所得補償制度は、農家の販売価格が生産コストを下回った場合、その差額に補助金を払って農家所得を補償する仕組みだ。欧米ではこの政策が生産拡大に効果をあげている。うまく生かせば、日本のゆがんだコメ政策の転換と農業再生につながる。

 だが、農水省案のように減反を続けつつ戸別所得補償を導入するのでは、農家の生産意欲は高まらない。

 農水省は補償対象を約180万戸と想定し、ほぼすべてのコメ販売農家に適用しようとしている。しかし、副業でコメを作っている農家が所得補償を期待して農地を手放さなくなれば、少しずつ進んできた主業農家への農地集約の流れが止まってしまう。

 ここは補償対象を農業を主業としている数十万戸に絞るべきではないか。

 コメの生産と輸入を自由化する。米価が下がって、主業農家の経営は打撃を受けるが、所得補償で支える。その先に、高品質の日本米を輸出する道も開けてくるだろう。政府はそういう農業の未来をめざしてほしい。

 農政の抜本的転換となるべき改革を、あまりに短期間に進めようという手法にも無理があるのではないか。拙速でない案を練り直すべきだ。

アジア政策―横浜会議への重い宿題

 シンガポールでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が閉幕し、鳩山由紀夫首相がアジア政策演説を行った。日米同盟を基軸にしつつ、友愛精神をもとに開かれた地域協力を積み重ね、アジアの平和と安定、繁栄を達成する――。

 前日にはオバマ米大統領が東京で画期的な演説をした。米国は「太平洋国家」としてアジアへの関与を強め、共同体論議にも積極的にかかわる――。

 世界が経済危機に陥ってから1年余り。中国や東南アジアは国際経済の下支えとして、そして将来の成長の牽引(けんいん)役としての存在感をいよいよ増している。中国の政治的な影響力や軍備の増強も、この地域の力の構造を大きく変えつつある。

 両首脳の演説は、大転換期を迎えたアジアにどう向き合っていくのかという、日米それぞれの基本姿勢の表明でもあった。首相が米国のアジアへの関与姿勢を歓迎したことは、今後の日米協力の土台となるだろう。

 日米両首脳の思いに、APEC会議に集まった多くのリーダーたちも共鳴したのではなかろうか。

 ちょうど20年前に創設されたAPECは貿易や投資の自由化努力を通じて、貿易の伸びや成長率が世界の他の地域を上回る。中国や東南アジア諸国の成長にも、環太平洋地域を舞台とする経済や貿易の活発な動きが大きな役割を果たしてきた。

 景気回復まで刺激策を続ける。域内の格差是正にも取り組む。それにとどまらず、さらなる発展をめざす新たな成長戦略をつくろう。1年後に横浜で開く首脳会議に向けて、APEC首脳たちはそう宣言した。

 来年の議長国、日本が担った責任は重い。94年の歴史的なボゴール宣言は「2010年に先進国で貿易と投資を自由化する」との目標を掲げた。この目標に沿って、21世紀の新たな戦略づくりをリードしなければならない。

 容易な作業ではない。米国はAPEC自由貿易圏の実現に関心を示すが、東南アジア諸国は米国主導の自由化交渉には警戒的だ。日本も農林業分野の自由化には及び腰だ。

 経済の領域だけではない。中国の影響力の拡大をどうとらえるか。アジアの経済発展には、地域の政治的、軍事的な安定が不可欠だが、これには米中や日中間、また多国間の枠組みをはじめ重層的な外交が重要になる。

 来年の横浜会議は、オバマ大統領が再び来日して、日米安保条約改定50周年を記念する機会ともなる。それに向けて、アジアの変化や地球規模の新しい課題に対応して、日米同盟を「深化」させるための協議も始まる。

 これを実り豊かな内容にするためにも米軍普天間飛行場の移設問題の打開を急ぎたい。

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