オバマ米大統領のアジア演説には、核廃絶やイスラムとの対話のような大きな理念は示されなかったが、アジア関与への強い意志は伝わった。「アジア太平洋国家」の具体像を示してほしい。
オバマ東京演説
『太平洋国家』の姿示せ
「再び日本に来ることができて嬉(うれ)しい」。アジア演説を、少年期の鎌倉訪問の体験談から切り出したのはいかにもオバマ大統領らしい。個人的な物語から説き起こして世界の大きなテーマにつなげてゆくのが、オバマ演説の定番だ。
核廃絶を訴えたプラハ演説、イスラムとの対話を呼び掛けたカイロ演説とも、「自分探しの旅」と絡めた展開だった。
しかし、今回の演説はやや違った。最後まで大きなビジョンは提示されず、現実的な内容に終始した。「近年この地域の組織から疎遠だった」と自らも述べたように、アジア太平洋地域においては、米国の関与が薄かった間に日本、中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)はじめ、様々(さまざま)な多国間協議の枠組みが先行している現実がある。
多岐にわたった演説内容の中で経済協力と並ぶ大きなテーマは、中国の役割、核拡散、そして北朝鮮とミャンマー問題の三つだ。
国際的影響力を強める中国について、大統領は「国際舞台での役割増大を歓迎する」「封じ込めようとは思わない」と明言する一方、別の個所では人権、言論の自由、自由選挙などの重要性を強調し、民主的価値観を共有する日米同盟が地域安定の基本との認識を示した。基地問題でぎくしゃくする日本への最大限の配慮だ。
核廃絶については、核兵器が存在する限り、米国は核抑止力により同盟国に安全を保障する、としながら、保有国としての核軍縮の交渉促進を強調した。ロシアとの核軍縮など一層の取り組みが期待される。
核開発が進む北朝鮮、深刻な人権問題を抱えるミャンマーに対しては、国際社会への関与を促す新たな道も提示し、直接交渉に踏み切る姿勢を示した。
「アジアと米国は太平洋で結ばれている」と述べ、太平洋国家としての米国を打ち出したオバマ大統領。ハワイで生まれ、インドネシアに育った「初の太平洋大統領」として指導力を発揮してゆくとも約束した。
自らアジア太平洋経済協力会議(APEC)開催国となる二年後までにどこまでその具体像を描けるか、当面の課題だ。
2009・11・15
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