HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17551 Content-Type: text/html ETag: "600630-448f-ce82a940" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sat, 14 Nov 2009 23:21:10 GMT Date: Sat, 14 Nov 2009 23:21:05 GMT Connection: close
アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
ここ何週か、金曜の小紙夕刊を手にすると少し緊張する。この日には脚本家、三谷幸喜さんの人気エッセー「ありふれた生活」が連載されている(統合版地域は翌朝刊)。三谷家の老猫オシマンベの訃報(ふほう)が書かれているのではないか――それが気にかかる▼先月の寄稿によれば、衰弱して目方が半分に減ったそうだ。三谷さん宅では昨夏にも老猫が旅立った。そのときは死を伝える文とともに、猫が横たわる和田誠さんの挿絵が載った。早刷りの夕刊をめくり、まず猫の絵がないのを見てほっとする金曜の午後である▼私事にわたるが、拙宅でも夏を前に老猫が死んだ。7キロあった体は3キロにしぼみ、よろよろになって息絶えた。狭い庭に盛った土饅頭(どまんじゅう)に、いまは枯れ葉が散って、猫の墓ながらそれなりの風情である▼世は空前のペットブームだという。その陰で、年に30万匹という犬と猫が、生きることも許されずガス室に消えていく。東京で上映中のドキュメンタリー「犬と猫と人間と」を見ると、もろもろの場面が人間の身勝手を突いてくる▼ひとりの猫好きのおばあさんの思いを、監督の飯田基晴さんが受け止めて作った。「人も好きですけど、人間よりマシみたい、動物の方が」。いまは亡き彼女のつぶやきが、われら霊長類ヒト科の生き物にほろ苦い▼〈犬猫も鳥も樹も好き 人間はうかと好きとは言へず過ぎ来て〉は歌人斎藤史(ふみ)の一首。人同士とは違う情の注ぎやすさがペット人気の側面にはあるのだろう。かりそめの情に終わらせないことは、人の道のイロハである。