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天声人語

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2009年11月14日(土)付

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 ベルギーの画家ルネ・マグリットに、昼と夜が同居した連作「光の帝国」がある。窓あかりの家と街灯、黒い木立の上は、なぜか青い空と白い雲だ。作者は〈夜と昼の想起は我々を脅かし、魅了する力を備えている〉と注釈を添えた▼科学の言葉では説きづらいが、かの国に暮らした頃、そうした情景を見た覚えがある。土地の空気がもたらす超現実とでも言うのか、長い夜が待つ晩秋から初冬の、日没後の一瞬だったと思う▼英語のトワイライト、日本で逢魔(おうま)が時(とき)と呼ばれる時間帯である。心細い光の中で、起こり得ないこと、あり得ないものを心の耳目がとらえる。薄暮の歩道で、亡き人の面影とすれ違った経験をお持ちでなかろうか▼そんな幻想を追い立てるように、今年も電飾がまぶしい季節となった。東京都心の六本木ヒルズでは、日本庭園にまで発光ダイオードの粒が散らされ、ケヤキ並木も青白い実をつけた。高層ホテルは、窓を使った巨大ツリーを競う▼上が暗く、下が明るいのはマグリットの作品とは逆ながら、これから年末にかけての街も「光の帝国」には違いない。延々と続く「昼」に、家族が集い、恋人たちが憩う。きらめく夜はなるほど幻想的だが、それは現実であって幻想ではない▼火ともし頃が恋しい候。ひと粒のあかり、ひと筋の光明は、あたりが暗いほど胸にしみる。夜汽車の窓にぽつんと浮かんだ灯火に、何ごともない日常、一家だんらんの愛(いと)おしさを見たのは、フーテンの寅さんだった。抱きしめたくなるような光は、すっかり貴重品である。

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