雨上がりの皇居前広場で、天皇、皇后両陛下は多くの国民の祝福を受けられた。即位二十年、お二人から浮かぶのは、即位時に誓われたお言葉を貫き、「国民とともに」を深めるひた向きなお姿だ。
式典に先立つ記者会見での天皇陛下のこの二十年の感慨への回答は「国民の上(うえ)を思い、象徴として望ましい天皇の在り方を求めつつ今日まで過ごしてきました」というものだった。
新しい日本国憲法下で、象徴として初めて即位する天皇として陛下が誓ったのは、いかなる時も国民とともにという昭和天皇の心を引き継ぎ日本国憲法を守ること、そして世界の平和、人類福祉の増進の切望だった。陛下の揺るぎない追究の姿勢は一貫している。
宮内庁関係者によると、即位十年目前後から、陛下の言葉や行動はたんなる「国民とともに」から「国民のために尽くす」に深まってきたという。歴代天皇の伝統を踏まえ到達した境地なのだろう。皇后さまも「陛下のお側(そば)にあってすべてを善かれと祈り続ける者でありたい」と述べていた。
皇后と二人三脚で国民のために祈る平成の天皇の姿は、阪神・淡路大震災など被災地への見舞いや広島、長崎、沖縄、東京、サイパンをめぐる戦争犠牲者への慰霊の旅を通じて、国民に浸透し、それぞれの胸に焼きついてきた。
今回の会見でも、高齢化と厳しい経済情勢の現状での人々の暮らしを案じ、高齢者や介護必要者たちを「みなが支え合う社会が築かれていくことを願っています」と語りかけている。深い共感を呼び起こさずにはおかないものだ。
忘れられぬお言葉のひとつに皇太子時代の沖縄での「尊い犠牲は一時の行為や言葉であがなえるものではない。長い年月をかけて記憶し、心を寄せ続けていくもの」がある。陛下は心配なこととして「次第に歴史が忘れられていくのではないか」を挙げた。
張作霖爆殺事件や満州事変など戦争にいたる昭和。悲惨な歴史の記憶があってこそ平和への切なる祈念と未来の備えが生まれる。肝に銘じたいことだ。
両陛下は「皇室の将来の憂慮」にも率直だった。皇后さまは天皇の「象徴」の意味について「今も言葉に表しがたい」と述べ、模索し、考え、努める「陛下の姿」にそれを感じてきたという。在るべき天皇像は時代により、それぞれが考えるべきというのだろう。これも次世代に引き継ぎたい。
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