北朝鮮が周辺国に対話を求めて動きだしました。問題は六カ国協議復帰−核放棄につながるかです。大きなカギは先の「改定憲法」にありそうです。
「八千本の使用済み核燃料棒の再処理を成功裏に終えた」
北朝鮮が突然、核計画の進展を公表しました。この夏以降、周辺国に対してしきりに対話攻勢を仕掛けてきたのにです。
「近く米朝交渉か」「南北が首脳会談をめぐり秘密接触」「中国が金正日総書記を招待」
こんな情報も飛び交いますが、周辺国との対話は思うように進んでいません。
米国は「非核化を実行しない限り制裁は緩めない」(クリントン国務長官)と明言しています。
◆「改定憲法」がカギ
韓国の李明博政権も「核放棄」が対北本格支援の条件。鳩山由紀夫首相も非核化に「不退転の決意」を表明しています。
対話攻勢の効果が表れない焦りが、今回の再処理の公表でしょうか。同時に、四、五月のミサイル発射・核実験に対する国際的な経済制裁は厳しく、緩和の糸口がつかめない焦りもあります。
いずれにせよ、北朝鮮が対話の席に着くのは歓迎です。問題は、六カ国協議への復帰−核放棄へと進むかどうかです。
六カ国協議をはじめとする対話により金総書記が最終的に核放棄を決断する可能性があるかという問いでもあります。
これを解きあかすカギが「改定憲法」です。四月の最高人民会議で採決されましたが、全文が明らかになったのはつい最近です。
ひと言でいうと「金正日憲法」への改定です。第六章第二節に「国防委員会委員長」が新設されました。委員長は金総書記、「最高指導者」と明記しました。
◆核兵器は“守護神”
そして、人民軍の使命(五九条)として「革命の首脳部を保衛」を加えました。首脳部とは金総書記です。軍が特定の人間を守るという憲法は世界でも珍しい。
要するに、金総書記による軍事独裁体制を憲法の条文でも明らかにしたのです。
一九九八年の憲法改定で、父親が就任していた「主席」を永世空席としましたが、今回の改定で同等あるいはそれ以上の権力を、名実ともに保持したのです。
同時に、国家の「指導的指針」(三条)として、故金日成主席による主体思想とともに「先軍思想」を掲げました。総書記が十数年前に創案したものです。
「軍事を第一の国事に掲げ、銃重視、軍事重視の思想を具現した独創的な政治」(最高人民会議の金永南常任委員長の説明)
すべてに軍事を優先する政治、体制を保証するのは軍事力という国家運営を明文化したのです。
そこで現状を見ると、通常兵器のほとんどは時代遅れ、となるとこの国家の“守護神”は核兵器とミサイルしかありません。
金正日体制=先軍政治には核が不可欠、核なしには維持できないということです。
また、故金主席生誕百年の二〇一二年に実現する「強盛大国」は、先軍政治の集大成。当然、核が大黒柱となります。
今回の憲法改定は、内外に対して金正日体制の保持・確立とともに、核保持が不可欠を宣言したと受け取ることができるのでは。
北朝鮮が四月に核放棄を一番の議題とする六カ国協議から離脱したのはその一つの表れだったようです。
もう一つ、今回の憲法改定は、健康不安を抱える金総書記が次世代も意識して、現体制の保持を図ろうとしたものでしょう。この憲法が続く限り、核放棄の大きな足かせになると予想されます。
北朝鮮の核計画が露呈した第一次核危機から約二十年。
この間、周辺国は食糧、燃料、肥料、医薬品などの見返りを出しましたが、結局は核実験を許してしまいました。
北朝鮮の瀬戸際作戦や、小刻みに譲歩して見返りをとる「サラミ戦術」に乗せられたためです。
いま、焦っているのは北朝鮮です。経済制裁で外貨は不足し、核・ミサイル開発に必要な先端技術や資材も先細りです。
食糧は、慢性的に年間百万トン不足、ことしは肥料不足や日照不足でさらに不作が伝えられます。
◆見返りは慎重に
これでは三年後に迫った最大の国家目標「強盛大国」実現の展望は開けません。
交渉に臨む場合も、核放棄に向けての具体的、実質的な進展なしに、見返りを出してはいけません。現体制を維持強化するような支援はもってのほかです。
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