HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17495 Content-Type: text/html ETag: "1667af-4457-65831b00" Cache-Control: max-age=5 Expires: Mon, 09 Nov 2009 02:21:10 GMT Date: Mon, 09 Nov 2009 02:21:05 GMT Connection: close
アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
名探偵シャーロック・ホームズと、相棒のワトスン博士が出会うくだりは、愛読者にはよく知られている。名高いコンビが誕生する場面で、ホームズが開口一番に言うのが「あなたはアフガニスタンに行ってこられたのでしょう?」である▼ときは19世紀の終わり近く、ワトスンは英軍の軍医として従軍して戻ったばかりという設定だ。文明の十字路とも言われたアフガンは、古くから列強の軍靴に踏まれた歴史を持つ。そして今も、多くの血がこの地で流されている▼政治も治安も悪化の一途をたどっているようだ。汚職がはびこり、麻薬栽培は広がり、10月の米軍の死者は過去最悪となった。出口の見えぬ泥沼は、いまや「オバマ政権の墓場」とさえ言われている▼折も折、米国の基地で銃の乱射が起きた。兵士の心のケアを担う精神科軍医の犯行とわかり衝撃は大きい。近くアフガンに派遣される予定だったという。大統領は来日を延ばして追悼式典に出ることになった▼わが在米中の7年前を思い出す。アフガン帰りの兵3人が続けて妻を殺す事件が起きた。うち2人は自殺した。米社会をむしばむ「心の傷」の、氷山の一角だったろう。「自ら傷つくことなしに戦争などできない」。取材したある帰還兵の言葉がいまも耳に残る▼小説ながらワトスン博士も、帰還したときは心身ともぼろぼろだった。変わらぬ戦争の実態だろう。快刀乱麻を断つ解決などアフガン問題には望みようもない。米国と世界と、何よりもアフガンの人々の抱える深い淵(ふち)を、いまさらながらに思う。