思わず胸が熱くなる大活躍だった。松井秀喜、ワールドシリーズMVP獲得。故障を乗り越え、最高の舞台で最高の結果を出した不屈の強打者に、海を越えて届けと喝采(かっさい)を送りたい。
優勝を決めた大一番で松井がやってのけた。米メジャーリーグの王者を決定するワールドシリーズ第6戦。ニューヨーク・ヤンキースが3勝2敗で迎えた試合で、ヤンキースの五番に入った松井秀喜外野手は本塁打を含む3安打で6打点をたたき出して圧勝劇の主役となり、シリーズ最優秀選手に選ばれた。長い歴史を誇る世界最高の舞台で、なんと日本選手が初めてMVPの栄誉を手にしたのだ。
先制の2ランホームランは二回に飛び出した。三回は満塁で2点適時打。五回には2点二塁打。どれも会心の当たりだった。そしてヤンキースは昨季覇者のフィラデルフィア・フィリーズを7−3で下し、九年ぶりのワールドチャンピオンに輝いた。まさしく五番のバットが優勝を決める貴重な勝利をもたらしたというわけだ。
それにしても、なんと感動的な活躍だったことだろう。昨季はひざの故障に泣き、三十五歳となった今季もそれが尾を引いて、フル出場はできなかった。外野の守りにはつけず、残された道は指名打者のみ。それでもレギュラーシーズンで28本塁打、90打点という好成績を残してポストシーズンゲームに臨み、大詰めの大舞台で鮮烈な打撃を見せつけたのである。
いかにもスポーツマンらしい誠実さと芯の強さを持つ男、それが松井だ。日米双方で傑出した実績を残しても、おごらず高ぶらず、不運にもくさることなく、常に力のすべてを出し尽くそうとしてきた。誰もが声援を送りたくなる、そのひたむきさが、苦難を乗り越える原動力となったのだろう。
何があってもけっしてあきらめず、ひたすら前に進んでいけば必ず道が開ける。常に言われることではあっても、それを実行するのは難しい。が、くじけないスラッガーはその言葉の正しさをあらためて証明してみせた。多くの人々が海の向こうから勇気や元気を受け取ったに違いない。
いまプロ野球の日米関係は微妙な時期にある。日本からの選手流出をはじめとする問題が山積している状況だ。とはいえ、なんとか双方がともに納得できる道を見つけたい。松井の描いたアーチを懸け橋のひとつとしたい。そんなこともふと考えさせる快挙だった。
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