アフガニスタンでカルザイ大統領の再選が決まった。攻勢を強めるタリバン内の穏健派に「兄弟よ」と和解を呼びかけた。通じないものか。米国の戦略も手詰まりの今、この姿勢を後押ししたい。
八月の選挙が不正まみれで、この七日に上位二人による決選投票のはずだったが、対立候補のアブドラ元外相が最後はボイコットしたための「不戦勝」である。
カルザイ氏は、八年前のイスラム原理主義タリバン政権の崩壊後、新生アフガンの指導者として期待が集まった。しかし、実際には腐敗まみれの政権で、公正なはずの選挙の混乱も国民の失望の表れともいえる。
実弟は麻薬取引のうわさが絶えず、海外からの巨額援助も政権幹部の懐に消えてしまう。後ろ盾の米国も一時は見限って、カルザイ氏の代わりを見つけようとしたといわれるほどだ。
それでもオバマ米政権が結局、再選を支持したのは今、対タリバンで解決への道筋を持つ人物は他に見当たらないからだろう。
米国は既に六万人以上の部隊を派遣しているが、十月の死者は月間で過去最悪の五十九人にのぼった。現地司令官は四万人規模の大増派を求めているが、ホワイトハウス内には、これ以上増派してもタリバンに勝てない、という見方が広がっている。
カルザイ氏は、タリバンと同じアフガン最大の民族パシュトゥン人だ。再選後の記者会見での「タリバンの兄弟よ。家に帰ろう」との言葉は、武器を捨てるよう促すメッセージである。
タリバンが勢力を拡大したのは、イスラム原理主義が広まったからではない。政権の権限が及ばない地方で、若者が加入を強要されたり、金銭で雇われたりする武装集団が加わっているからだ。
原理主義や国際テロ組織アルカイダからは遠い“穏健派”タリバンは、武力ではなく、カルザイ氏が目指すように、離脱を説得する手だてもあるはずだ。
家族を殺され、タリバンに憎しみを抱く国民は多い。説得には政権の汚職を一掃し、求心力回復が不可欠なのは言うまでもない。
鳩山首相は国会で繰り返し、タリバンから離脱した兵士を職業訓練して社会復帰させる民生支援を表明している。近づく日米首脳会談でも、アフガン支援は主要議題の一つになる。カルザイ氏の呼びかけが奏功するよう、十分に調整してほしい。
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