HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 01 Nov 2009 20:17:40 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 『日米対等』の軌跡:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 『日米対等』の軌跡

2009年11月1日

 「対等な日米関係」を目指す鳩山由紀夫首相。近く来日するオバマ米大統領との会談は、何が「対等」かを実質的に話し合う場になるでしょう。

 「日米新時代」(岸信介内閣)「イコールパートナーシップ」(池田勇人内閣)「同盟関係」(鈴木善幸内閣)「運命共同体」(中曽根康弘内閣)。表現は違っても鳩山首相に限らず歴代首相の多くが米国との対等な関係を志向してきました。

 首相交代のたびに行われた訪米を「参勤交代」と揶揄(やゆ)する時代もありましたが、当事者の首相としては「核の傘」で守られていても日本は米国の属国ではないとの心意気だったのでしょう。

◆緊張の場、日米首脳会談

 対日平和条約で独立を回復後、初めて訪米した首相は岸氏でしたが、こんなエピソードが残っています。一九五七年六月、ワシントン到着直後、アイゼンハワー大統領からゴルフに誘われた岸首相はゴルフ好きにもかかわらず大変緊張したとのことです。旧安保の改定をはじめ「日米新時代」を開くのが目的の訪米でしたから、たかがゴルフされどゴルフで、交渉打開のために一打目から失敗は許されない、と。とっさに屋島の戦いで見事、扇を射落とした那須与一を思ったそうです。そして「八百万(やおよろず)の神ご照覧あれと祈って打った」。結果は、この日一番のショットで「ほっと胸をなでおろした」と回想しています。

 「山よりでかいイノシシは出ない」。何人かの首相から日米首脳会談の前に聞いた言葉です。会談を無事乗り切れるよう自らを暗示にかけているようにも見受けましたが、日本の政治リーダーにとっては、ほかの国の首脳との会談に比べて日米首脳会談は、ことさら緊張する場のようです。

◆「同盟」敷いた大平首相

 共同声明に初めて「同盟(alliance)」という表現が登場した八一年の鈴木・レーガン会談。米側に押され軍事同盟色が強まったとのマスコミ報道に、鈴木首相は「米国の家来ではない。防衛費急増は国民の反発を招くと説明し、大統領も納得したのに、どうして報道はこうなるのか」と帰りの機中で強い不満を漏らしました。やがて伊東正義外相の辞任に発展しましたが、「同盟」の背景には前年からの伏線があったことへの鈴木氏の認識不足もあり、発言は軌道修正を迫られました。

 八〇年に訪米した大平正芳首相は、対ソ戦略で苦慮するカーター大統領に「同盟国として共存共苦の態度で米国に全面的に協力する」と述べました。同席した加藤紘一官房副長官(当時)によれば「カーター大統領の頬(ほお)がみるみる紅潮していくのが分かった」といいます。米国が苦しい時に助けるのが対等の日米関係ではないか、との思いが大平氏にはあったのです。このときは共同声明が出なかったので「同盟」との表現は問題化しませんでしたが、既にこの時点で外務、防衛当局は同盟を前提とした安保の広範囲運用に踏み出していたといえるでしょう。

 六〇年安保当時なら「同盟」との表現を使うだけで首相の首が飛んだでしょうが、時代の変化で日米安保が国際的に是認される時代になっています。とりわけ中国が七二年の日中正常化直前に「日米安保は日中正常化の支障にならない」(周恩来首相)と表明したことが大きく影響しました。それ以前の中国は日米安保に関して「日本反動派が日本の主権を売り渡した身売り証文で日本を米帝の侵略の戦車にしばりつける鎖」(七〇年、人民日報社説)との見解を堅持していました。

 他国の論評はともあれ、本来なら少なくとも沖縄の祖国復帰の際に、安保条約を友好条約に代えて在日米軍基地をなくし、日本単独で国防策をとる選択肢もあったはずです。だが日本独自で防衛力増強を図れば戦前の「軍国日本」が復活するかもしれない。むしろ米国の「核の傘」の下にいたほうが安心との見方が近隣諸国の中に根強くあるのも事実です。

 「日米対等」との鳩山首相の主張は、日本が現在以上の防衛負担をしてくれとの口実を米側に与える可能性もあります。現にゲーツ国防長官は米軍普天間飛行場のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設計画について「早期に実施してほしい。普天間の代替施設なしに米海兵隊のグアム移転はない」と迫っています。一方、沖縄県民の立場に立てば、市街地に隣接した米軍基地が消えることこそ日米対等関係に近づくとの思いでしょう。

◆「安保」か「対等」か

 「安保優先」か、「対等重視」か。日米首脳会談は「核なき世界」を目指すとの理想追求では友好裏に進むでしょうが、沖縄基地の移転問題では鳩山首相の「日米対等」論が試される緊張した空気になるかもしれません。

 

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