岡田克也外相は、少し疲れているのではないか。心配だ。
海兵隊のヘリコプター基地である普天間の嘉手納統合案を手に持って訪米したい。外相はそう考えた。だが閣内、地元との調整もないままクリントン国務長官に会っても「国内で意見をまとめてほしい」といわれ、子供の使いになってしまう。
外相は就任早々、ニューヨークに飛び、国連総会に出席した各国外相と会談した。いったん帰国し、韓国、中国、アフガニスタン、パキスタン、インドネシアを歴訪した。臨時国会に備え、勉強もしたはずだ。
56歳は若くない。夏の衆院選挙の疲れも残る。きょうまで体と頭を休める暇がなかったのではないか。特に、それを感じさせるのが、普天間問題をめぐる発言である。
外相は嘉手納案にこだわる。北沢俊美防衛相は、従来の日米合意に近い考えだ。ただし、結論を急ぎたい点では両相は一致する。一方、鳩山由紀夫首相は、特定の選択肢を語らない。結論を急がず、時間をかけて決断すると述べる。
首相、外相、防衛相が三人三様の意見を述べ、日本外交と鳩山政権の信頼性を損ねている。
外相の嘉手納案は、位置づけがはっきりしない。仲井真弘多沖縄県知事には「個人の案」と説明し、参院本会議で自民党議員から聞かれると「外相としての発言」と答えた。場当たりにみえる対応は、論理を重んじる岡田氏らしくない。
嘉手納案は新基地建設にはならないから、早く移せるようにみえる。が、10年以上前に検討され、採用されなかったのには理由がある。
米軍は、戦闘機など固定翼の軍用機と回転翼のヘリコプターを同じ基地に発着させる運用上の難しさを指摘してきた。嘉手納町など地元自治体は、騒音などの負担をこれまで以上に強いられると反対してきた。
ライス在日米軍司令官からも、仲井真知事からも、外相はこれらを聞かされたはずである。
外相はこれまでの交渉経過を検証中だが、書類を読んで頭で考えるよりも、現場を踏むのが先決だ。急いで訪米するよりも、普天間、嘉手納、辺野古を実際に見て、関係者の声を聴き、虚心に考えてほしい。
国会開会式での天皇陛下の「お言葉」をめぐる外相発言に対し、首相は「コメントすべきでなかった」と述べた。本来は謙虚で慎重なはずなのに、首相にも批判される発言をしてしまう。仮に自覚がなくても、これも疲れのせいなのだろう。でなけば、事態はさらに深刻になる。