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「山田君、全部持ってっちゃいなさい」。「笑点」の大喜利で豪快に笑いながら、座布団没収を命じる声が耳に残る。落語と茶の間をぐいと引き寄せて、三遊亭円楽さんが76歳で亡くなった▼29歳で真打ち、次いでテレビの人気者に。高座とタレント業を両立させた噺家(はなしか)の先駆けだろう。客の前で差し歯がぽろりと抜けたことがある。口元を手ぬぐいで押さえ、「これで私も一人前のハナシ家になりました」。出ばやしの元禄花見踊りそのまま、おおらかで華のある人だった▼「人物をきちっと描写する。根底はリアリズムです」と、落語の基本を語っている。物腰は柔らかでも芸では自他に厳しく、だからこそ、登場人物を思い通りに描けない晩年の現実、もどかしかったに違いない▼脳梗塞(こうそく)から1年で復帰しての高座。「医者からは、もういっぺん起こしたらおしまいって言われてます。この場でなったら適当にアレして下さい」と笑わせた。聴く者を幸せにする言葉を持ち通した▼最後は進退をかけた一席に納得がいかず、同じ舞台から引退を表明する。この引き際に小欄が触れたところ、取材の同僚に「あたしは幸運です。死んだわけでもないのに天声人語にまで取り上げられた」と語った。師匠円生の訃報(ふほう)が、直後に死んだパンダより小さな扱いだったことを引いての洒落(しゃれ)である▼冗談とはいえ、言葉の達人から随分もったいない「お返事」だった。次はこうして、不本意ながらご自身が読まない日に載せる巡りとなった。落語界にまた、大きな座布団がぽつんと残された。