お姫さまや美女に求婚者が殺到するという設定は古い物語にはよくある▼求婚者は、とんでもない難題を出されたり、奇天烈(きてれつ)な謎を解かされたりする。シェークスピア『ヴェニスの商人』の貴婦人ポーシャの場合は、亡父の遺言により、婿は金、銀、鉛でできた三つの箱から一つを選ぶくじで決められる設定だ▼はずれても、一生、ほかの女に求婚しないとの誓約を課されるため、多くの求婚者が断念する中、くじに挑んだモロッコ王は金、アラゴン王は銀の箱を選んで、いずれもはずれ。ひねりはないが、結局、ポーシャ意中の美男バサーニオが鉛の箱を選び、その座を射止める▼きのう行われたプロ野球のドラフト会議では、貴婦人ならぬ高校ナンバーワン左腕、菊池雄星投手(花巻東高)に六人の求婚者ならぬ六球団の指名が殺到した。こちらも運命のくじ引きの結果、西武が交渉権を獲得した▼事前に「どの球団でもOK」と言っていた菊池投手だ。指名後の会見でも笑顔を見せた。米大リーグ行きではなく、まずは日本球界を選んだ十八歳の決断が、よい結果になることを祈りたい▼くじにはずれたりして、今、キラキラと輝くスター候補とは縁のなかった球団もあろう。だが、落胆は無用。件(くだん)の金の箱にあった紙には、こんな文句が。<輝くもの、必ずしも金ならず…>。案外、鉛が“当たり”だったりもする。