HTTP/1.0 200 OK Age: 337 Accept-Ranges: bytes Date: Thu, 29 Oct 2009 23:15:34 GMT Content-Length: 7651 Content-Type: text/html Connection: keep-alive Proxy-Connection: keep-alive Server: Zeus/4.2 Last-Modified: Thu, 29 Oct 2009 14:21:40 GMT NIKKEI NET(日経ネット):社説・春秋−日本経済新聞の社説、1面コラムの春秋

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春秋(10/30)

 その部屋に足を踏み入れた瞬間、生き物の気配を感じた。薄暗い空間のそこここに、息を潜めて辺りを窺(うかが)う何者かがいた。改装を終えて開館した東京・南青山の根津美術館である。新しい展示室で、太古の美術品が目を覚ましつつある。

▼紀元前の古代中国、殷時代の青銅器の数々が、ほのかな光に浮かび上がり、恐ろしいほどの存在感を放つ。幾千年もの時を土の中で眠り続けたのだろう。鈍い青緑色の金属の塊に命を吹き込んだのは発光ダイオード(LED)を使った照明だった。太陽の輝きから蝋燭(ろうそく)の明かりまで自在に再現する現代日本の技だ。

▼色彩がない山水画。素朴な茶器。難しい字が並ぶ墨跡……。古美術は派手に自己主張しない。わずかな光線の加減で、国宝級の名作が押し黙るかと思えば、意外な作品が冗舌に語り出すこともある。館長の根津公一さんは「眼力がある1人の愛好家ではなく、99人の常人に魅力を伝える美術館でありたい」という。

▼一つひとつの展示品ごとに、陰影を確かめながら、LEDの明るさや色合い、角度などの試行錯誤を重ねるそうだ。秘められた美をなんとか取り出して見せようと、照明の操作盤と格闘する裏方の美術館の人々がいる。その営みもまた、時空を超えて物と人をつなぐ、芸術家の仕事であろう。芸術の秋はもう深い。

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