郵政改革の方向を大幅に変更する政府方針の下、日本郵政の経営陣も入れ替わった。官から民へ、資金の流れの転換を目指した小泉内閣の民営化とは逆向きに走り始めるとみられる。憂うべき事態である。
日本郵政は28日に開いた株主総会で、唯一の株主である政府の提案により、役員を選任した。辞任した西川善文社長の後任に元大蔵事務次官の斎藤次郎氏を充て、役員も大幅に入れ替えた。常勤取締役5人のうち官僚OBが3人を占める。
日本郵政は定款で指名委員会が役員を指名すると決めているが、1人を除く指名委員の辞任が決まっていたのを理由に指名委員会を開かず、政府のいわば“政治任用”による役員人事となった。この一事をみても日本郵政はもはや民営化した会社の体をなしていない。
一方、政府は郵政民営化推進室を廃止して郵政改革推進室を設立。室長には小泉内閣時代、民営化に非協力的として更迭された総務省の元局長が就いた。
先週、政府が閣議決定した「郵政改革の基本方針」は、日本郵政の下に貯金、保険、郵便事業、郵便局の4社を置く体制を見直して再編成する。ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険には銀行法、保険業法とは別の規制をかける。この決定に基づき日本郵政グループの株式売却を凍結する法案を今国会に提出する。
民営化でサービスが低下したという声や、旧特定郵便局長らの民営化への反対を受けて政府は方針を変えた。サービス改善は体制を変えなくてもできたはずだが、基本方針や役員人事をみると、政府は郵政事業を事実上、旧日本郵政公社またはそれ以前の姿に戻す方針と読める。
郵貯・簡保資金は長年、国債、地方債の購入や特殊法人への投融資などに非効率に使われた。その時代に戻る可能性を否定できない。
斎藤新社長は郵貯・簡保資金を地域・中小企業金融に活用する考えを表明した。しかし民営化を後退させる流れのなかでは、公益の名のもとに、きちんとした審査もせず中小企業や地方自治体関連の企業体などに資金を貸す恐れもあろう。郵政改革をめぐる政府の新方針はこれらを含め様々な危険をはらんでいる。