鳩山由紀夫首相は所信表明演説で、温暖化対策の交渉を主導する意欲を見せた。高い目標を掲げた日本は世界注視の的だ。だが、速やかに具体策を提示しないと、称賛は一夜で冷笑に変わる。
鳩山内閣が掲げる「温室効果ガス一九九〇年比25%削減公約」の影響は、予想以上に大きい。
バンコクで開催されていた、京都議定書に続く温暖化対策枠組みづくりの特別作業部会でも、これまでとは打って変わり、途上国から日本をたたえる声が相次いだ。
称賛の余韻の中、首相は所信表明で公約実現のための新たな国民運動を起こすと述べた。名付けて「チャレンジ25」。だが、スローガンだけで国民や企業は動かない。余韻もすぐに冷めていく。
政府は25%削減への有力な具体策として、キャップ&トレード式の国内排出量取引市場の創設を挙げている。温室効果ガスの排出量が多い企業などに排出の上限枠を割り当て、過不足を売買で調整する仕組みである。お互いに融通し合うことで設備投資が少なく済み、余れば売れるので、企業に「やる気」を起こさせる。
二〇〇五年には欧州連合の統一市場が開設され、年間五百億ドル(約四兆五千億円)の取引規模に膨らんだ。米国が興味を示し、欧米主導による国際市場の創設へ動き始めた。
国内では環境省が自主参加型の制度を試行している。が、排出枠を第三者が割り当てず、参加者が自主的に決めるやり方なので削減効果にも、市場自体の成長にも、おのずと限界ができてしまう。
一方、国際市場の創設には先進国から途上国へ、温暖化対策資金を流れやすくする意味もある。
今回の特別作業部会でも、途上国と先進国をつなぐ存在として、資金メカニズムの設計は議論の中心だった。欧米から新たな仕組みも提案された。資金や技術のスムーズな流れができれば、途上国も次期削減枠組みへの積極参加に大きく傾くはずだ。国内市場開設は国際市場参入への大前提だ。企業間の不公平やマネーゲーム化を危ぶむ声もある。
だが、国際市場に初めから参画するとしないとでは、途上国への発言力にも大きな違いが出るだろう。ここで流れに乗り遅れては国際的指導力の発揮どころか、将来の経済的損失にもなりかねない。売り手にも買い手にも、より多くの利益になるような、日本型国内市場の制度設計が急がれる。
この記事を印刷する