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親方から「たいほう」という名を貰(もら)ったとき、「大砲」かと思ったそうだ。「大鵬」のいわれを聞いても、ちんぷんかんぷんだったと、ご本人は回想している。のちに大横綱のしこ名として、戦後昭和史に刻まれる2文字である▼元横綱大鵬の納谷幸喜さん(69)が文化功労者に選ばれた。伝統ある角界から初とは意外だったが、一番ふさわしい人だろう。横綱在位は、わが腕白(わんぱく)時代に重なる。砂場の相撲遊びでは、誰もがその2文字を名乗りたがったものだ▼優勝32回の金字塔は、「人の5倍」という稽古(けいこ)の賜(たまもの)だった。いまの角界には稽古不足がはびこっている、と厳しい。それが、芸への精進もなく、テレビに出れば「芸能人」ともてはやされる風潮と重なるのだそうだ。精進不足の拙筆も、少しばかり耳が痛い▼そんな凡人とは違い、芸を磨き抜いたのが、文化勲章を受ける桂米朝さん(83)である。こちらも落語界で初というのは、話芸は冷や飯を食わされてきたのか。ともあれ重鎮として、誰もが納得の栄誉だろう▼戦後、絶滅寸前とも言われた上方落語を立て直した。かつて聞かせてもらったとき、端正な芸に誘い出されるように笑いがわいた。横隔膜の痙攣(けいれん)のようなテレビのお笑いとは、趣が違う▼「良い雰囲気の中で客席と演者が一つになったような時、真の落語はその中に存在します。そして終了と同時に消えてしまいます」。その一瞬のために精進するのが噺家(はなしか)だと米朝さんは述べる。相撲にも似たものがあろう。芸と勝負の道に咲いた、鮮やかな大輪ふたつである。