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どこで聞いたか読んだか忘れたが、印象深かったので覚えている。アメリカの老富豪があるとき、「全財産をはたいてもかなえたい望みはあるか」と聞かれたそうだ。その答えがよかった▼「大好きな『ハックルベリー・フィンの冒険』をまだ読んでいない状態に戻してほしい」、と。富豪は少年時代に夢中で読んだのだろう。愛書中の愛書なのだが、読み返しても、まっさらで読んだあの興奮はよみがえらない。だから、もう一度――。想像まじりだが、こんな一冊のある人は幸せだと思う▼活字離れが言われる時代に、「幸せ者」は減りつつあるのかと案じていた。だが本好きな中高生は近年かなり増えているそうだ。調査結果を報じる毎日新聞によれば、学校で読書の時間を設けるといった取り組みが功を奏しているらしい▼読まないのはむしろ大人かもしれない。4人に1人が「月0冊」だと小紙の記事にあった。理由は「多忙で時間がない」が3割、「読みたい本がない」が2割。子ども時代の読書体験が、長じての読書量を左右するようである▼中国に「三余(さんよ)」という言葉がある。読書に適した三つの余暇で、冬と夜、雨の日をさす。「三上(さんじょう)」なる言葉もあって、文を練るのにいい場所として馬上、枕上(ちんじょう)、それに厠上(しじょう)を言う▼枕上は寝床だが、馬上は今なら電車の席になろうか。本を読むにも悪くはない。厠上は好きずきとして、時も所もうまく使って本とつき合う時間を探したい。きのうから読書週間。老富豪のようなときめきの「一冊」に、さて巡り合えるだろうか。