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医療行為や薬の値段を決めてきた中央社会保険医療協議会の人事を長妻昭厚生労働相が発表した。長妻氏は「医療崩壊を食い止める」ために診療報酬を見直すとし、その考えに沿って委員を選んだと会見で述べた。
民主党は政権公約で、医療再生のために医師の増員とともに「医療機関の診療報酬の増額」を掲げた。開業医に比べて病院勤務の医師らの待遇の改善が遅れている、との認識だ。鳩山政権はこの公約実現に向けて一歩を踏み出したことになる。
来春に控えた報酬改定では、従来の配分方式を改め、地域の医療を支える病院に大胆に上積みすることが期待される。その意味で、中医協の人事も大切なことだ。
今回の人事では、これまで3人いた日本医師会の執行部メンバーが外され、代わりに茨城県と京都府の医師会幹部2人と大学医学部長1人が入る。新委員はいずれも日医の推薦を受けていない。
日医をはじめ関連団体が推薦した人が委員に就く慣例だったが、政権交代で一変した。医師委員5人のうち病院を代表する医師が3人になったことも大きな変化だ。
開業医の意見が強く反映される日医の影響力をそぐ。そこに狙いがあると思われる。
報酬改定については、自民党を支持してきた日医が強い力を持ち続けた。その結果、開業医に比べて病院の再診料は低く抑えられてきた。
近年は医師不足や救急患者の受け入れ能力の低下など、病院の厳しい実態が明らかになるにつれ、救急医療の報酬を増やすといった病院経営への配慮がなされたが、根本解決には遠い。今後の改定が注目されるところだ。
問題は、財源をどうするかである。長妻氏は診療報酬全体を増やす意向を示しているが、今回は病院の勤務医などに手厚く配分する一方で開業医にもある程度は上積みする、ということが可能かどうか。
実際には、病院経営を助けるために開業医の再診料を引き下げられるかが問われるのではないか。
報酬を考える上で負担のあり方をめぐる論議も避けて通れない。現在の仕組みでは、報酬を上げると患者の負担や税、保険料もかさむ。厳しい不況の中で患者にも負担増を求めることができるのか。さまざまな工夫が検討されなくてはならない。
見直しが必要なのは医師の報酬に限らない。技師など高い技術をもつ医療従事者を含めて病院がきちんと評価され、それに見合う報酬を受けるようにするための改革が求められる。
中医協人事は手順のひとつであり、医療再生に結びつけなくては意味がないことを長妻氏は肝に銘じてほしい。
東京都八王子市のスーパーでアルバイトの女子高生ら3人が射殺された事件は、未解決のまま、来年7月の時効がせまりつつある。
犯罪が起きてから一定の期間がすぎると、容疑者がわかっても起訴できなくなる。八王子事件の当時は15年だった。4年前に時効期間が見直され、死刑にあたる罪は25年に延長された。
これをさらに見直すため、千葉景子法相はきょう、法改正の検討を法制審議会に諮問する。
公訴時効は国家が犯人の逃げ得を許すに等しい。前回の見直しは不十分で重大事件の時効は撤廃すべきだ――。被害者団体からのそんな意見を受け、鳩山政権の対応が注目されていた。
時効制度がある主な理由は、時がたつと証拠が集めにくくなり、公正な裁判が難しくなるからだ。だが、DNA型鑑定の精度が飛躍的に向上し、長い年月の後にも犯人を特定できる可能性が高まった。
犯罪の被害者にはだれもがなる恐れがある。社会全体として犯罪を徹底的に追及するという姿勢を示すことは重要だ。欧米には時効を撤廃した国もある。日本でも政府や国会で真剣に検討することが必要である。
ただし、同時に冤罪防止策の強化を図ることが不可欠だ。事件から何十年もたって、ある日突然、身に覚えのない容疑をかけられても、アリバイを証明する証拠は散逸し、証人もいなくなっているかもしれない。
DNA型鑑定も過信できない。事件現場で犯人とは別人のものが紛れ込む可能性がある。長期に保管するうちにすりかわる恐れも否定はできない。
犯人のDNAを適切に採取して保存することはいまでも重要だが、時効が延長されたり、撤廃されたりするならば、より厳正な保管が必要になる。未解決事件の関係者の証言も録画して保存しておくべきだ。
政権交代前の7月、法務省は殺人罪の時効を廃止の方向で検討すべきだとの報告をまとめた。一方、民主党は、検察官の請求によって裁判官が時効を中断する制度の検討を示していた。
民主党案は司法手続きをへて決定するという点で法務省報告よりも慎重だ。しかし、手続きの時点での証拠によって、時効中断の事件が線引きされてしまうことが問題になりそうだ。
対象にひき逃げ事件を含めるように要望する被害者もいる。現在時効が進行中の事件までさかのぼって適用するのか。捜査態勢はどう変えていくのか、など検討すべき論点は多い。
千葉法相は法務省報告や民主党案にとらわれずに、白紙の状態で法制審に諮問する姿勢だ。刑事司法の根幹にかかわるだけに、一筋縄ではいかないテーマということだろう。さまざまな角度からの検討を求めたい。