亀井静香金融・郵政担当相が提唱した中小零細企業向け融資や個人住宅ローンの返済を猶予する制度の概要が固まった。できる限り銀行など当事者間の自主判断を尊重する姿勢を堅持すべきだ。
当初はどうなることやら、と思われたが、ほぼ妥当な線で落ち着きそうだ。亀井大臣の初めの発言では、銀行と借り手の金銭貸借契約に政府が介入し、強制力をもって借金返済を猶予させるような印象だった。
ところが草案によると、返済猶予は政府による強制的義務付けではなく、借り手の求めに応じて貸し手が返済条件を変更するよう努める「努力義務」に変わった。
制度自体も二〇一一年三月までの時限措置とし、この間に金融機関が制度の実施状況を定期的に金融庁に開示し、虚偽報告には罰則を科すにとどまった。
政府の強制力が盛り込まれれば、ある種の「現代版徳政令」になりかねず、話はこじれたに違いない。金融界からもひとまず安堵(あんど)する声が出ている。
ただ、問題点も残る。金融機関が返済猶予に応じたうえで、借り手が破綻(はたん)して返済できなくなった場合、政府が債務を保証する仕組みが新たにできる。事実上の政府による肩代わりだ。
借り手に返済見込みがないのに、銀行が安易に返済猶予に応じれば、銀行の腹は痛まない一方、最終的な借金のつけは国民に回る可能性が高まる。そうした貸し手と借り手のモラルハザード(倫理観の欠如)を防ぐためには、返済不能になった場合でも、双方が一定の損失を被るような十分な歯止め策を工夫する必要がある。
政府による債務保証を無制限に拡大すれば、事実上の金融社会主義にもなりかねない。
借り手の企業や個人が制度を大歓迎して活用するとも限らない。返済猶予されたときはよくても、その後は貸し渋りにあって資金繰りが苦しくなるかもしれないからだ。そうならないよう、あくまで当事者同士の判断を尊重しつつ、非常時対応の一環として注意深く制度設計してほしい。
政府の信用保証については、経済産業省が新しい制度をつくると発表した。巨額赤字を抱えた財政の現状を考えれば、既存の信用保証枠組みの手直しで対応できないのか疑問が残る。できる限り財政に負担をかけないようにすべきだ。
間違っても、新制度が役人の領土拡張になってはいけない。
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