鳩山由紀夫首相が一連の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で、東アジア共同体構想を説明した。何度も消えた構想だが各国の共感を得た。枠組みなど具体像を信頼と協力で作ってほしい。
「毎年代わる」「米国のいいなり」と最近はASEAN首脳会議で存在感の薄かった日本の首相が、久々に脚光を浴びた。タイの有力紙には「東アジアの活性化を」との見出しで鳩山首相のインタビュー記事が組まれた。
「アジア重視」を掲げる首相の姿勢にも好意的だ。しかし、この共同体構想には「日中韓中心に議論が進まないか」と警戒する声はASEANに少なくない。「共同体の中心はASEAN」と首相が強調したのも、このためだろう。
しかし首相の説明は、当面は経済や教育、防災などで連携し「東アジアへの協力を着実に」と一般論止まりで、スタートはこれからになる。
同じ構想は二十年ほど前にマレーシアの当時のマハティール首相が「東アジア経済圏」を提唱し、日本でも二〇〇二年に当時の小泉純一郎首相が「共に歩み共に進む」という「東アジア・コミュニティー」構想を打ち出すなどしてきたが、米国の反対や日中の張り合いで頓挫した。二十五日の議長声明では「議論を再活性化してくれた」と評価はされたが、今回の構想が従来と何が違うのか、今後各国の宿題になった。
参加国の範囲があいまいなことも、戸惑う要因の一つだ。中国はASEAN+3(日中韓)に絞りたい意向だが、日本は中国の影響力を薄めようと、印、豪、ニュージーランドの加入を望んでいる。
首相は席上、日本の外交方針を「日米同盟が基軸」と説明し、共同体に米国が関与する必要性をにじませたが、ASEANには超大国に乗っ取られる警戒感が強い。わざわざ言ったのは、排除を警戒する米国の緊張感を解くためだろう。だが、欧州連合(EU)のような統合に挑む気か。米中という大国を抱えた場合にどんな共同体になるのか見えてこない。
ASEANへの中国の支援攻勢には目を見張るものがある。米国もオバマ政権になってASEAN接近を強め、中国をけん制する。
中国の躍進で影響力が低下したとはいえ、日本は戦後、さまざまな支援や企業進出で信頼関係を築き上げてきた。協力関係を着実に深めていくことが、いつか、ともに目指す長期構想につながろう。
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