鳩山由紀夫首相が就任後初めて行った所信表明演説からは、「新しい政治」にかける意気込みは伝わってきた。しかし、理念先行の感は否めず、政策実現に向けた具体的道筋は依然、見えていない。
今回の演説は、鳩山内閣がどういった政治理念に基づき、どのような政策を実現するのか、国民に初めて体系的に語るものだ。
首相は「政治には弱い立場の人々、少数の人々の視点が尊重されなければならない」と指摘し、それが自らの掲げる「友愛政治」の原点だと強調。経済合理性や経済成長に偏らない「人間のための経済」への転換を提唱した。
また外交面では、「対等な日米同盟」を、日米両国が世界の平和と安全に果たす役割を「日本の側からも積極的に提言し、協力していけるような関係」と定義した。
首相の意気込みは、近年の歴代首相の約二倍に当たる一万三千字近い字数、五十分を超える所要時間からもうかがえる。演説は全体に聞きやすく、政治理念を訴える力に満ちたものだった。
ただ、理念を掲げれば、政策が実現できるというものでもない。
例えば友愛政治。弱者配慮や少数者の尊重は言い古されてきた理念であり、問題はこれまでの政治が、十分に実現できなかったことにある。国民が民主党に託したのは理念の具現化であり、政策実現の具体的なシナリオが、演説から感じ取れなかったのは残念だ。
政策実現には財源が必要だ。二〇一〇年度予算の概算要求総額が一般会計で過去最高の九十五兆円超に膨らみ、マニフェストの政策先送りが取りざたされる状況で、首相がいくら「予算編成の在り方を徹底的に見直す」と強調しても、どれほどの説得力を持つのか。
米軍普天間飛行場の移設問題に関し、首相は沖縄県民の負担に「十分に思いをいたし」「真剣に取り組む」と語ったが、マニフェストにあった、在日米軍基地の「見直し」という文言は消えた。
このまま、前政権で結んだ協定通り、県内移設を求める米側に押し切られてしまうのではないかとの見方もあり、そうした懸念に答える言葉はなかった。
発足から四十日余りの鳩山内閣に成果を問うのは性急だが、政策実現への道筋が見えなければ、国民に失望感が広がる。二十八日からの代表質問では、理念をどう具体化していくのか、首相の口から、ぜひ聞かせてほしい。
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