新政権下で教育行政にも様々な見直しの動きが出てきた。差し当たり注目すべきなのは教員養成制度の改革だろう。現行では大学の学部卒業までの4年間で教員免許が得られる。この養成課程を大学院修士課程修了の6年間に延長する構想だ。
川端達夫文部科学相は教員の資質向上のための踏み込んだ対応だと言うが、疑問点はあまりにも多い。慎重にことを進めてもらいたい。
養成課程の延長は、10年ごとに講習と試験を課す教員免許更新制の廃止と抱き合わせで議論されている。今年から始まった制度だが、2011年度にも廃止するという。
たしかに免許更新制は趣旨があいまいだ。不適格教員排除という当初の狙いは消え、ベテラン教員が最新の知識や技能を得るための研修に性格が変わった。事実上ほとんどの受講者がパスできるとみられる。
だからといって、始まったばかりの制度をいきなり廃止するのでは現場は戸惑うばかりだ。まだどんな効果が得られるかの検証も進んでいない。それを見極めつつ、新制度を探る丁寧さが必要だろう。
そもそも養成課程を6年制にする場合、大学院の定員が決定的に足りない。教員免許を取得する学生は毎年約10万人。ところが全国の教職大学院を合わせても1000人弱の修了者しか出せないのが現状だ。
この枠を大幅に広げるには国立大の大学院増設も含めて相当な財源が要るし、教官をどう確保するかも難題だ。一方で、教員免許を取るのに6年間もかかるとなれば志望者が大きく減り、かえって優秀な人材を得にくくなる恐れもある。
現在は2週間ほどの教育実習期間を1年間へと大幅に長くしたり、ベテラン教員に研修を経て「専門免許状」を与えたりする案も浮上している。資質向上にどれほど役立つのか、徹底した検討が欠かせまい。
もうひとつ気になるのは、これらの改革が文科省の権限膨張を招きかねないことだ。教育界に新風を吹き込むには社会人教員の登用や免許制度の柔軟な運用も必要なはずだが、この構想だけが先走りすれば硬直的な教員養成システムが強化される心配がある。もっと視野を広げて教員づくりに取り組むべきである。