HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17452 Content-Type: text/html ETag: "2f1967-442c-7d707700" Cache-Control: max-age=4 Expires: Mon, 26 Oct 2009 00:21:10 GMT Date: Mon, 26 Oct 2009 00:21:06 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2009年10月26日(月)付

印刷

 東京の声欄で、投函(とうかん)する前に落とした手紙がちゃんと届いた話を読んだ。誰かが郵便ポストに入れてくれたらしい。投稿者は「見知らぬ者のためにひと手間をかけて下さった方がいる事実」に感激したという▼人は信じるに足る存在である――。04年の台風23号で、洪水の一夜を観光バスの屋根で明かした中島明子さん(69)が、新刊『バス水没事故 幸せをくれた10時間』(朝日新聞出版)にそう書いている▼京都府舞鶴市の国道で立ち往生したバス。乗り合わせた37人の平均年齢は60代半ばだった。濁流が車内に満ちる中、割った窓から全員が屋根に。水は屋根を越え、立ちすくむ人々の腰に迫った。流されぬよう隣と肩や腕を組み、ひと固まりになった▼思いやりは思いやりを生む。暗闇で体を温め合ううち、みんな一緒に助かるぞという連帯感が広がったという。「上を向いて歩こう」の合唱で睡魔に耐えた話はよく知られる。音頭を取った中島さんは、即興で2番の歌詞を替えた。〈幸せはバスの上に/幸せは水の中に……〉▼看護師を長く勤めた著者は振り返る。「自らをなげうって、無意識のうちに誰かのために行動できる人たちが、この世界にはごく当たり前に存在する。あの夜、私は64歳にしてそれを知ることができました」。極限を生き抜いての感慨である▼人間は細やかな善意だけで動くものではない。わが身はかわいく、世にはせこい敵意や鈍感があふれるが、人は助け合う本能を備えていると信じたい。お互い、最も賢いはずの動物に生まれてきたのだから。

PR情報