東大教授で作家、詩人でもある松浦寿輝さんが愛用のオートバイを盗まれたのは46歳のときだ。四輪車に乗り換えて書いた。「たしかに快適だし、ずっと安全性も高いけれど、しかしそのぶん、生きるうえでの態度としてはどこか守りの姿勢に入ることになる」
▼日本国中が守りに入ったのか、バイクが売れない。ピークの1982年に329万台売れたのに今年は40万台を割るという。8分の1だ。何とかしようと、日本自動車工業会が四輪車の免許で125ccバイクに乗れるようにしてほしいと警察庁に要望した。50cc以下、が今のルールである。
▼まず認められないだろうとは思うが、やめたほうがよくはないか。125ccといえばクルマと遜(そん)色(しょく)ないスピードが出る。しかし転ぶ。転べばまずけがをする。シートベルトを締めて箱の中に座る姿と比べれば、危険なことが分かる。乗るには少々の覚悟と「攻め」の姿勢が要る。同じ免許でどうぞ、とはいかない。
▼「雨にぬれながら走っているオートバイを見ると、あれは自分なんだなあって思うんですよ」。バイク好きの落語家、柳家小三治さんが言っている。そうそう、と思えるかどうか。おととい始まった東京モーターショーには中高年を当て込んだ大型バイクも並んでいるが、攻めの気持ちなしに操れる代物ではない。