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継ぐとは、創(つく)ると同じくらい重い仕事である。東京都美術館の「冷泉(れいぜい)家 王朝の和歌(うた)守(もり)展」を見て思った。藤原定家(ていか)らを祖とする京都・冷泉家が守り伝えてきた和歌集などが公開されている(12月20日まで)▼定家らが書写しなければ、名歌の数々は今に残らなかったかもしれない。和歌守の偉業と併せ、時空を超えて文化を運ぶ紙の力を思う。金銀の箔(はく)を散らした料紙などは、流れる名筆に負けぬ芸術性だ▼先ごろの小欄で和紙について書いたところ、多くのお便りをいただいた。神奈川県藤沢市の女性(96)は、お母さんの里が「岐阜の山奥」で、美濃紙を戦争中まですいていたという。最後に送ってもらった分をこれまで障子や水墨画に使ってきたというから、紙は長命だ▼いよいよ残り少なくなりましたと、戦前にすいたという貴重な2枚が同封されていた。優しく淡い黄色で、1枚には花模様の透かしが入る。歳月を思わせない張りに、今は作句が楽しみという持ち主の人生が重なった▼岡山県倉敷市の女性(50)は、灰がかった茶色の備中和紙に手すきの魅力をつづっておられる。常々、気の利いた絵はがきを寄せられる方である。追伸に「久しぶりに墨をすり、筆を持って疲れたけれど、気持ちがしゃんとしました」とあった▼牛乳パックから再生したはがきを送ってくれたのは広島市の女性(71)だ。一枚一枚、授産所の知的障害者たちが手作りしているという。エコ精神をすき込んだ粗削りな風合いもまたいい。幸せ者のその紙は、牛乳の次に人の思いを運ぶことになる。