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天声人語

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2009年10月24日(土)付

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 土は働き者だと、この季節になると思う。棚田保存の活動に加えてもらって、今年も新米がとれた。猫の額ほどの一枚ながら60キロも実らせた。収穫のすんだ田は、ひと仕事を終えて、秋日和に身を養うような風格を漂わせている▼今年も各地で、その地その地の土と水が稲を実らせた。近ごろの品種は名前も楽しい。北海道の「ゆめぴりか」、青森の「まっしぐら」、九州なら「にこまる」、岩手は「どんぴしゃり」……。炊きたての艶(つや)と湯気を思えば、腹の虫が動き出す▼ご飯と日本人は切っても切れない。だが米食民族というより、「米食悲願民族」だったという人もいる。史上ずっと混ぜ飯を食べてきたからだ。誰もが白米を腹一杯食べられるようになったのは、昭和も30年代を待ってだった▼その悲願を果たしたものの、米作りは衰退する。消費は減り、価格は下がり、農家は高齢化が進んだ。働き者の土は、全国で埼玉県とほぼ同じ広さが、耕作放棄で失業中だ。たまの田仕事で百姓気分の呑気(のんき)さが、申し訳なくなる▼とはいえ、せっかくの新米である。炊くのは、鍋でも釜でも直火がいい。料理にくらべて飯炊きは不当に軽んじられている、と言ったのは北大路魯山人だった。自分の料亭に来る料理人には、「君は飯が炊けるか」と一番に聞いたそうだ▼お節介(せっかい)ながら、炊きたての新米に豪華な総菜を並べてはいけない。主役はやはり一人がいい。ご飯は立派な料理である、と魯山人は言っている。瑞穂(みずほ)の国の歴史と文化の溶け込んだ一粒一粒は、さて、どんな味がする。

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