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10月23日付 編集手帳

 寺山修司の詩文集「思いださないで」のなかに、時計の一節がある。〈時計の針が/前にすすむと「時間」になります/後にすすむと「思い出」になります…〉。思えば人は、前後どちらにも針の動く時計を携えて人生を歩いている◆つらい出来事は「後にすすむ」針に託し、身は「前にすすむ」針に託す。振り向けば、耐えられそうになかった悲しみもいつしか歳月の彼方(かなた)(かす)んでいる。針の動かない、壊れた時計をもつ人はどうすればいいだろう◆27年前にドイツで娘(当時14歳)を殺されたとして、フランス人の父親(74)が第三者に依頼し、ドイツ人の容疑者(74)を刑に服させるべくフランスへ誘拐したという◆容疑者はドイツでは証拠不十分で無罪となり、のちにパリの裁判所で被告人不在のまま過失致死罪で禁固15年の刑を言い渡されている。フランスの警察に逮捕され、改めて法の裁きを受けることになるという。27年後の復讐(ふくしゅう)――そう報じられている◆誘拐も犯罪であり、父親の執念を称揚するつもりはない。ないが、47歳の人が74歳になるまで胸に抱いてきた「壊れた時計」には切ないものがある。

2009年10月23日01時37分  読売新聞)
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