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藤沢周平を読む楽しみの一つは、文章の端々で、その奥ゆかしい人柄にふれることだ。作家になる前は食品業界紙の記者をしていた。名をなしてからのこと、旧知の社長に伝記の執筆を頼まれたそうだ▼迷った末に引き受けた理由をこう書いている。「十五年間、その業界から暮らしの糧(かて)をもらったことを、かりそめに思うべきではない、という気持ちがあったからである」。この人らしい律義さが筆ににじみ出る▼日本郵政の次の社長になる斎藤次郎氏が、律義でないと言うのではない。だが大蔵省を辞めて15年はたつから、もう「元官僚という意識はない」と言う。小説家に比べて実務家は、過去を彼方(かなた)に押しやるのが得意なようである▼「10年に一人」と言われた大物官僚である。それこそ、かりそめではない。亀井大臣の人選に首相も驚いたというが、ならなぜ退けぬ。「辞めて長い」とかばう声は弱々しい。脱官僚、天下り根絶を売る鳩山商店の看板はこれでガタリと傾いた▼亀井さんの声ばかりが相変わらず元気だ。先ごろの小欄で、俳句の季語の「亀鳴く」は想像だと書いたら、実際に聞いたという便りを多数頂戴(ちょうだい)した。亀に発声器官はないが、呼気などが声のように聞こえることがあるらしい▼企業でも何でも、人事を見れば「権力」の重心はおぼろに透けてくるものだ。斎藤氏が小沢幹事長に近いと聞けば、首相のリーダーシップにも疑問符がつく。蟻(あり)ならぬ亀の一穴から土手が崩れる心配もあろう。〈亀鳴くや事と違ひし志〉安住敦。鳩山さんの心境だろうか。