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足利事件再審―司法は自らの過ちを裁け

 身に覚えのない犯行をなぜ「自白」してしまったのか。捜査官はどうやって誘導したのか。裁判官はそのことになぜ気付かなかったのか。

 この答えを、宇都宮地裁で始まった足利事件の再審裁判は国民の前にはっきりと示さなければならない。

 誰もがいつ同じ目にあうかもしれないし、逆に裁判員として冤罪をつくる側になってしまうかもしれない。だから、ぜひとも知りたいのだ。

 19年前、4歳の女児が殺害された現場の周辺では、それ以前にも女児が殺される事件があり、いずれも未解決だった。足利事件も発生から1年半がたち、警察には焦りがあった。

 そこへ飛び込んできたのが、目をつけていた菅家利和さんの体液のDNA型と、被害者の着衣に付いていた体液のそれとが一致したという警察庁科学警察研究所の鑑定結果だった。

 DNA型鑑定は捜査に導入されたばかりで精度が低かった。それにもかかわらず鑑定結果が絶対のものであるかのように、警察官も検察官も菅家さんを追いつめて「自白」をさせ、逮捕、起訴した。

 しかも菅家さんが真実を語ろうとしたときに、検察官が再び「自白」を強く迫った。残された録音テープをもとに弁護側はそう主張する。菅家さんは法廷でも、一審の途中まで犯行を認め続けてしまった。

 菅家さんの「自白」に犯人しか知らない「秘密の暴露」はなかったし、供述内容と現場の状況とが矛盾する点もあった。過去の誤判でも、しばしば鑑定結果への過信が原因だった。なぜ疑問を抱き、中立の機関による再鑑定をしなかったのか。

 鑑定結果自体が誤っていた可能性もある。それを、うその自白で塗り固めたのが足利事件だったのではないか。

 一昨日始まった再審は、無期懲役判決の根拠となった科警研のDNA型鑑定を検証するため、専門家の証人尋問をすることを決めた。検察側にテープの提出も命じた。

 それだけでなく当時の捜査官らを証人尋問し、DNA型鑑定と「自白」の過程を解明する必要がある。法廷でのテープの再生も欠かせない。

 検察だけでなく、裁判所も一審から最高裁まで誤りを犯した。弁護も十分でない点があった。誤判の原因を徹底的に解明し対策を講じなければ、司法への国民の信頼をつなぎとめることはできないだろう。

 いわれのない罪での勾留(こうりゅう)・服役から17年半ぶりに釈放された菅家さんは再審の法廷で「真実を明らかにし、私の納得のいく無罪判決を」と述べた。

 冤罪史の教訓がいつまでたっても生かされない。刑事司法の欠陥を正すための手掛かりを提供できるかどうか。それがこの再審裁判にかかる。

行政刷新会議―「仕分け人」に期待する

 予算の無駄遣いを徹底的になくしてほしい。政権交代にそんな思いを託した有権者は少なくないはずだ。その役割を担う行政刷新会議がいよいよスタートした。

 取り組むのは、過去最大の95兆円に膨らんだ来年度予算の概算要求の削り込みだ。マニフェストの公約を意欲的に盛り込んだものの、とても財源が追いつかない。野放図な国債発行を避けるには無駄を省き、不要不急の事業に大なたを振るうしかない。

 仙谷由人行政刷新相は92兆円まで削る目標を掲げ、鳩山由紀夫首相はさらなる削減を求めている。自民党長期政権下で続いてきた事業の中には、おりのように多くの無駄がたまっているに違いない。政権交代は、過去のしがらみにとらわれずに予算をリセットする好機だ。大胆に切り込んでほしい。

 そのための強力な武器として期待されるのが「事業仕分け」という手法だ。民間のシンクタンク「構想日本」が開発したもので、7年前から地方自治体の事業見直し、予算の効率化に活用され、実績を重ねてきた。

 自治体職員と「仕分け人」と呼ばれる外部の評価者が、行政サービスをひとつずつ取り上げ、本当に必要なのか、必要だとしても自治体が行うのが適当なのか、民間に任せられないのか、事業の規模ややり方は今のままでいいのかを議論し、分類していく。

 自治体とは比べものにならない規模の国家予算を相手に、この手法がどこまで有効に働くか。複雑に入りくんだ予算や行政の深い森の中で、迷子になりはしないか。「仕分け人」の力量が問われる。

 行政刷新会議は、構想日本の加藤秀樹代表を事務局長に起用し、実務に詳しい民間人のほか、枝野幸男元政調会長ら約30人の民主党議員を投入するという。

 無駄の洗い出しはもちろん、地方や民間に委ねるべき事業をより分け、政策に優先順位をつける作業である。政治家が判断の責任を持つのは当然だ。

 政府は、事業仕分けの作業を全面公開する方針だ。国民の視線にさらされる緊張感の中でこそ、公正な吟味が可能になる。

 納税者が参加意識を持つうえでも意義は大きい。行政サービスのあり方、官と民、国と地方の役割分担を考える契機にしたい。そこに「行政刷新」の本当の意味がある。

 政権交代で概算要求をやり直したため、12月末の予算案決定まであまり時間がない。今回、仕分け対象を廃止や大幅な圧縮が見込める約240事業に絞るのはやむをえないだろう。

 しかし、来年度以降はぜひ予算全体に切り込んでほしい。そのための知恵や工夫を、今回の仕分けを通じて蓄積してもらいたい。

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