各国の元政府高官や安全保障の専門家らが十五、二十年先を視野に入れ「核なき世界」の実現を目指す行動計画を提言した。核軍縮の機運を追い風に、各国の外交、安保政策に反映させたい。
日本とオーストラリアが主導した「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」の四回目となる最終会合が広島市で開かれた。
共同議長の川口順子元外相、オーストラリアのエバンズ元外相と委員らは会合の前日、原爆ドームや資料館を視察し、被爆者の体験も聞いた。
委員会は来年五月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向け報告書を一月に発表する。三日間の会合を終え、二人の共同議長が提言の概要を説明した。
当面の目標として、二〇一二年までに米ロ戦略兵器削減交渉の早期妥結、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効などを挙げた。二五年までに核兵器ゼロに手が届く状況に到達するよう、各国の努力を促している。
現在、世界には約二万発の核弾頭がある。委員会は二五年までの削減目標数で合意したが、数値は明らかにされなかった。
草案では「二五年に千発以下にする」目標だったが、核保有国の一部から反対があり、あいまいな表現になった。全世界で千発以下になると核廃絶が視野に入ってくるといわれるだけに、目標数の後退は残念だと言わざるをえない。
また委員会は「核の先制不使用」政策を採用するよう提言した。核保有国が核を使用するのは、相手側から核攻撃を受けた場合の反撃だけにとどめるという政策だ。早期実現を強く求める意見もあったが、目標期限は先送りされた。
先制不使用は核の抑止力を無力化するという反対があり、現実の厚い壁を浮き彫りにした。日本も米国の「核の傘」を前提とした安保政策が決定的に影響を受けるとして慎重論を唱えたようだ。
だが、鳩山由紀夫首相は九月の国連安保理演説で「日本は核廃絶の先頭に立つ」と述べた。廃絶を訴えるなら、米国の核の傘や先制不使用政策の在り方まで視野に入れて、論議を深める時期に来ているのではないか。
被爆者の多くは高齢者だ。委員会が示した目標は「二五年に核廃絶に手が届く」ことだが、被爆者が生存しているうちに核なき世界を実現したい。
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