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〈わが郷土(さと)の地名冠せる事件あり横浜事件ありし如(ごと)くに(足利事件)〉。破調の一首が小紙の栃木県版にあった。横浜事件は戦中の大がかりな言論弾圧事件である。連座した評論家の青地晨(しん)は、のちにこう書いている▼「いくら真実を述べても、相手はてんから取りあげず、まるで四方をとりまく厚い鉄壁をこぶしで叩くような絶望感が、虚偽の自白へ導くのだ」と。青地は戦後、多くの冤罪事件を調べて歩いた。著書を繰(く)れば、「無実なら自白はしないだろう」という見方は、素朴に過ぎると気づかされる▼足利事件では女児が殺された。取り調べを録音したテープの中身を、今週の「週刊朝日」が報じている。ごく一部の掲載だが、青地の言う「絶望感」が密室から漏れ伝わってくる。自白は、DNA型鑑定とともに有罪の大きな証拠になった▼その事件の再審が始まり、菅家利和さん(63)が無実を訴えた。法廷で、裁判長は「被告人」ではなく「菅家さん」と呼んだ。明らかな無実である。勝ち取るというより、取り返すと言う方がふさわしい▼犯人に仕立てられた真相を再審で解明してほしい、と菅家さんは求めている。検察側は逃げ腰だが、17年半の歳月を奪った大罪である。面子(メンツ)にこだわるかぎり司法の信頼回復は難しい▼冒頭の青地は、「学問のヨロイに武装された鑑定が大手をふってまかり通る」とも述べている。今回のDNA型鑑定もしかりだった。真相解明を通して、悲劇の繰り返しに終止符を打ちたい。自分を最後に。それが、菅家さんの切なる願いでもある。