鳩山政権が郵政民営化見直しの基本方針を決めた。三事業一体、全国一律サービスの義務化が柱だ。これを受け日本郵政の西川社長が辞意を表明した。見直しは利用者の立場で図られるべきだ。
基本方針は郵便・貯金・簡易保険を一体的に提供し、郵便にしか課せられていなかった全国一律サービスの義務化を貯金と簡保にも広げることを念頭に置いている。
持ち株会社・日本郵政の下に郵便局会社と郵便事業会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の四つの子会社をぶら下げる、小泉政権設計の四分社化を根っこから見直す大転換といえる。
亀井静香郵政改革担当相は四分社化が過疎地を中心にサービスを著しく低下させたとして、郵便局を年金記録の確認など、行政窓口としても活用する試案を示した。機能を多角化し、新たな時代の要請にこたえる郵便局への衣替え構想を打ち上げている。
ゆうちょ銀は民営化を機に銀行法の適用対象となり、預金受け入れなどの事務手続きが煩雑になって郵便局の窓口で待たされる事例が目立つ。郵便配達のついでに貯金の仲介ができなくなり、お年寄りからの苦情も相次いだ。
利便性が低下すれば見直す。当然のことで、それには非効率な官業ビジネスに慣れきった窓口職員の徹底した再教育や、事務手続きを合理化して利便性を向上させる抜本見直しが欠かせない。
見直しで懸念されるのは、郵政事業に対する政府の支配力強化だ。亀井氏は「元に戻すことはしない」と国営化を一応は否定しているが、社民党は政権公約で「完全支配できる株式保有」を主張し、民主党と国民新党も政府の関与を色濃くにじませている。
ゆうちょ銀、かんぽ生命の政府保有株をどの程度維持するかは今後に委ねられた。来週召集の臨時国会に売却を一時凍結する法案を提出し、来年の通常国会までに経営形態を含む見直し法案を策定する段取りだ。名実ともに民営維持か、限りなく国営に近づくかを問わず、金融は信用こそが根幹だ。
非効率なビジネスに舞い戻ることなく、預金者の信頼を損ねぬ確かな制度設計を求めたい。
小泉純一郎元首相に請われ初代社長に就いた西川善文氏が辞意を表明した。株式を早期に上場し、四分社化を前提に事業拡大を目指す経営方針が、鳩山政権の見直しに真っ向から反する以上、やむを得ない判断といえるだろう。
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