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天声人語

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2009年10月20日(火)付

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 今ごろになって、ある数字の違いに気がついた。先ごろの小欄でJR宝塚線(福知山線)の事故の犠牲者を107人と書いた。だが106人としているメディアもあった。大阪の同僚に聞くと、運転士を含めるか否かで変わるのだという▼たしかに、「犠牲者」と呼ぶときは1人少なく言うべきかもしれない。一方で、事故の引き金を引いた者を指弾するだけでは、再発の防止にはつながらない。背景まで徹底して調べる必要がある。そうした事故調査のあるべき姿を、JR西日本の数々の裏工作はゆがめた▼警察の聴取に口裏合わせをした疑いもある。安全運行に携わる担当者は「ポリちゃん想定問答集」なるものを作っていたそうだ。個人的なことで、組織的な関与はないと同社は言うが、一事が全体を雄弁に語ることもあろう▼安全対策とは、何も起こらなくて当たり前の地味な仕事だ。打って出て社業を伸ばす華々しさはない。その「縁の下」を経営陣が軽んずるなら、社員も同じ色に染まるだろう。とかく言われる、安全軽視の社風である▼犠牲者といえば、忘れがたい記事がある。事故でパートナーを亡くした女性が1年半後に自殺した。10年も一緒だったが、結婚していなかったためJRから遺族として接してもらえなかったという。108人目と言うべきか、痛ましさが胸を突く▼事故が起きてから安全策をとる愚を「ツームストン・セーフティー(墓碑の安全)」と言う。せめて悲劇を無駄にはしない――その誓いさえ偽りでは、犠牲者は2度殺されることになる。

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