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初代の通天閣が浪速の空を突いたのは明治末。パリの凱旋(がいせん)門にエッフェル塔を乗せたような珍妙な姿ながら、高さは東洋一を誇った。東洋一のうたい文句は、名古屋テレビ塔や霞が関ビルなど戦後の建物にも残る。大国への歩みを「一」でかみしめた時代である▼東京都墨田区に建設中の東京スカイツリーが、634メートルにかさ上げされるそうだ。中国・広州のテレビ塔が610メートル前後になると知って、てっぺんのアンテナを予定より24メートルほど伸ばす。開業時に「世界一の電波塔」とうたうための変更という▼背伸びしたのが中国なら「やっぱり」と笑うところだろう。経済大国の先達として、すましている手もあった。高さ世界一にこだわる根性や元気が日本に残っていたとは、驚き半分、うれしさ半分である▼東京タワーがエッフェル塔を超えるべく設計されたように、大きさで一番を欲するのは発展途上の発想といえる。超高層ビルの新築は東南アジアや中国に目立ち、中東諸国もオイルマネーの記念塔のごとき計画を競っている▼スカイツリーの634メートルは、東京近辺の旧国名、武蔵の語呂合わせという。電波の送信基地だから「より高く」を目ざす道理があるのに、世界一にあれこれ理屈をつけるあたり、ほのかな恥じらいを感じぬでもない▼奇跡の成長に続き、はや衰退期に入ったかに見える日本。ここで妙に達観し、隠居を決め込んではいよいよ先細りではないか。異国の名所を重ね餅(もち)にした浪速のエネルギーは昔話にしても、成熟国なりに「一」への執着があっていい。