HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17460 Content-Type: text/html ETag: "41487b-4434-62717680" Cache-Control: max-age=2 Expires: Sat, 17 Oct 2009 02:21:07 GMT Date: Sat, 17 Oct 2009 02:21:05 GMT Connection: close
アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
それぞれの道に歩み出すきっかけは人によって様々だ。囲碁の林海峰(りん・かいほう)さんの場合は父親の手ほどきだったと、ご本人が回想している。台湾で銀行関係の仕事をしていた父親は碁が好きだった。だが「ざる碁」だったらしく、客に負かされてばかりいた▼そこで、自分より強くなった息子を同行して相手をさせ、「親のかたき」を討たせることを思いついたそうだ。林さんはあちこち家を回り、たいていは勝ったという。のちに来日しての活躍は、囲碁好きの方には言わずもがなだろう▼その林さんが持っていた、囲碁名人戦の最年少タイトルの記録が、44年ぶりに破られた。平成に生まれた20歳の井山裕太八段が、張栩(ちょう・う)名人を下して手中にした。最強の呼び声が高かった名人を、「完敗でした」と脱帽させての栄誉である▼道をつけたのは、こちらも父親だったそうだ。5歳のころ、テレビゲームの囲碁を見て興味を持ち始めた。お父さんいわく、「数カ月で歯がたたなくなりました」。だが容赦のない才能の世界である。プロへの道は勇気も覚悟も要ったことだろう▼「名人」という小説を残した川端康成はかつて、最高峰の碁を「虚空に白刃の風を聞くよう」に感じると言っていた。方寸の盤上で切り結ぶ棋士に、剣士の孤影を重ねていたのかもしれない▼国外を眺めれば、いつしか韓国と中国に後れをとる日本の囲碁である。新しい風を巻き起こす期待が若い名人にかかる。風下に甘んじるつもりは本人もない。「世界で戦えることを証明したい」という、その言や良しである。